2.高校入学

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2.高校入学

 高校は普通科と商業科のある高校で、私は商業科に入学した。  この商業科には私と同じ中学の子はいないが、普通科に一人いるだけだった。  最初は楽しい高校生活だったと、見栄を張って言いたいところだが、9年間のいじめの後遺症は凄まじかった。  クラスのみんな初対面なのだが、どうしても心のどこかで (どうせ嫌われる) (どうせいじめられる) と卑屈な気持ちになってしまい、なかなかみんなに打ち解けられずにいた。  もともとは人見知りせず、人懐っこい性格だったらしいが、いつのまにか完全に人見知りになり、自分から周りに話しかけることも出来ず、外では笑うことさえ出来ず、小学生で培った怖い顔のままでいることしか出来ずに、気づいたときにはまた透明人間であった。  透明人間からの脱出を試みるが、どうすればいいのか分からないまま、半年が過ぎた。  商業科には珍しく、比較的真面目で大人しい子たちが大半を占めていたが、隣のクラスに4人組のやんちゃで目立つグループがいた。  昼休みにいつもの日課である読書をしていると、目の前にその4人組が立ちはだかった。  教室内はシーンとし、一人の声だけが響いた。 「あんたさ、いじめられっ子だったんだてぇ?フン、なんかムカつくからいじめられんのも分かるわぁ」 と小馬鹿にされる。 「え、あいついじめられてたんだ、知らなかった。」 「だからいつも暗いんだ」 教室内で囁く声がする。 (何も聞こえない。知らん顔してやり過ごせ) 心の中で呪文のように言い聞かせた。 「帰り、あんただけ残れよ、話あるから。」 すぐに悟った。 (これはマズイ。占められる流れじゃん!どうする・・・)  私には兄弟もいないので、喧嘩というものをしたことがなかった。  ましてや一緒に喧嘩してくれる友達もいない。  ただ、ここで弱いところを見せるわけにはいかないことだけは分かった。 (とにかくハッタリでごまかすか・・・いや、通じるのか?一か八か喧嘩してみるか・・・いやフルボッコにされて終わったら今後どう生きればいいのか分からん・・・どうする・・・どうすればいい!!)  一日中、そんなことを考えていたが、時間は迫る。  仕方なく、なるようになれとヤケクソな気持ちで教室に一人、席で本を読み4人組を待っていると、 「マジ!?あんた馬鹿?うちら4人いるのに本当に一人で待ってたのかよ、アハハ」 また馬鹿にされた。 「一人で待ってろって言ったのはどこのドイツだっけ?そんなことも忘れちゃう馬鹿なの?ちゃんと一人であんたたちの話を聞いてやろうとしてんだよ」 「はぁ?一対四で勝てると思ってんの!?」 「ちょっと待って!!コイツ・・・ホントはヤバいのかも・・・」 「何?ヤバいのは間違いないっしょ。ホントに一人で待ってんだからさ」 「いやそうじゃなくて・・・コイツさ、バックに誰かついてんじゃね!?」 高校生とは今も昔も想像力が凄い。 (あらら、彼女たちには私は見えてないのか?本当に透明人間になっちゃったのか、あたし・・・) 「あ、あ、あのさ、今日のことは誰にも言わないでくれる?」 「はぁ???」 「いや、だから今日呼び出したことを誰にも言うなってこと」 (よし、しめた!!逃げ切れる!!) ここで一発、秘儀「ハッタリの術」 出来る限り、声に凄みを入れ、 「んで、用事は?終わったってことでいいのか?なら帰る。暇じゃねぇ」 「あ、うん。くれぐれも今日のことは・・・」 「2度とあたしに偉そうな態度をとるんじゃねぇぞ。じゃぁな」  内心バクバクで、椅子から立ち上がった足はガクガクだったが、悟られまいと必死に震えを抑え、小さくガッツポーズをしながら帰宅した。  翌日、学校に行くと4人組が靴箱の前に勢ぞろいしていた。 「あ、おはよう玲奈ちゃん。」 「あんた」から「ちゃん」に格上げされている。 「きのうのことなんだけど・・・」 「あ?昨日?なんかあったっけか?」 「あ~、あっはは、そうだよね何もなかったね。あれ~なんか勘違いしたかなぁ」  4人組は猛ダッシュで自分のクラスに帰っていった。  いったい彼女たちは何がしたかったのか、いまだに不思議で仕方ない。  だが、彼女たちと友達にもならず、相も変らずいじめられっ子の毎日は変わらなかった。
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