2.高校入学

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 教室に戻ると、今朝のことは皆忘れたようにいつもと同じ日常があった。 (朝あんなことがあったのに、誰も気にしないんだ・・・)  自分の席に戻ると、 「お~い、皆聞いてくれ。今日なクラスでいじめがあったんだが・・・」 担任が何度も皆に、そう声をかける。  だが、一向に静かにならず、皆の話声や笑い声にかき消されてしまう。 (やっぱり、猿は猿だな)  だんだん腹が立ち、皆のキンキン声に苛立ち、 「先生、もういいよ!!これでよく分かった!! てめぇらは全員やっぱりクソだってことがな!」 最後には怒鳴っていた。  所詮、他人事。  自分に害がなければ、周りがどんなに辛くて苦しんでいても、手を差し伸べようともしない。  自分に火の粉がかからなければ、払うことさえしない。  今朝のこともクラス全員が見ていたはずなのに、誰も何もしない。  私は何を期待して、皆に話そうとしていたのだろうか。  この期に及んで、皆に期待していた私が一番猿なのかも知れない。 「もういいよ。私帰るわ。」 「いや、待て。きちんと話そう。」 やっとみんなが鎮まり、もう一度担任が話し出した。 「今朝な、クラスでいじめがあったんだ。 玲奈な、このクラスに犯人はいないって信じてたんだ。 頼むから、皆話を聞いてほしい。 玲奈、話せるか?」  どう話せばいいのか、何も考えがまとまらない。 「何から話せばいいのか・・・ みんな今朝、私の机を見て知ってると思うんだけど。 誰がやったとかではなくて、私は皆が大好きなんだよね。明るくて元気なみんなが本当は大好き。 ただ人見知りで、なかなか打ち解けられなくて、でもみんなとは仲良くなりたいの。ただ、やり方が分からないんだ。 幼稚園みたいに、みんな仲良くしましょうもへんでしょ?」 皆がクスッと笑った。 「実は昔から話し方がキツイとか、近づくと怒られそうとかずっと言われて、12年間いじめられてきた。そんな自分を守るためにそんなオーラ出してしまってた。 でも、自分じゃ分からなくなっちゃって・・・家族以外の人とまともに話すことなんかないから、自分では普通に皆と同じように話してるつもりなんだけど、やっぱりキツイって言われちゃう。 治したくても分からないんだ。」 ゆっくり時間をかけて自分の想いを伝えた。 「よく頑張ったな。みんなも腹割って話せよ。」 一人が手を挙げた。 「私、玲奈好きよ。ただ怖かったのはあるかな。でも、今話聞いて玲奈のこと理解できた。」 「私も好きよ。でもやっぱり怖かったよねぇ、笑わないし、どう話しかけていいのか分かんなかったよ。」 「いじめられてるのは知ってたけど、どうしてあげたらいいのか分からなくて放置してごめんね。」 皆の声が、心の中にある真っ黒く固いものを、少しづつ溶かしてくれた。 「みんな、ありがとう。」 翌日から目立つようないじめはなくなったが、今更誰かと仲良くなる事もなく、今までと変わらずただただ、卒業式を待つだけ、残りの日々を穏やかに1人過ごすだけであった。
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