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教室に戻ると、今朝のことは皆忘れたようにいつもと同じ日常があった。
(朝あんなことがあったのに、誰も気にしないんだ・・・)
自分の席に戻ると、
「お~い、皆聞いてくれ。今日なクラスでいじめがあったんだが・・・」
担任が何度も皆に、そう声をかける。
だが、一向に静かにならず、皆の話声や笑い声にかき消されてしまう。
(やっぱり、猿は猿だな)
だんだん腹が立ち、皆のキンキン声に苛立ち、
「先生、もういいよ!!これでよく分かった!!
てめぇらは全員やっぱりクソだってことがな!」
最後には怒鳴っていた。
所詮、他人事。
自分に害がなければ、周りがどんなに辛くて苦しんでいても、手を差し伸べようともしない。
自分に火の粉がかからなければ、払うことさえしない。
今朝のこともクラス全員が見ていたはずなのに、誰も何もしない。
私は何を期待して、皆に話そうとしていたのだろうか。
この期に及んで、皆に期待していた私が一番猿なのかも知れない。
「もういいよ。私帰るわ。」
「いや、待て。きちんと話そう。」
やっとみんなが鎮まり、もう一度担任が話し出した。
「今朝な、クラスでいじめがあったんだ。
玲奈な、このクラスに犯人はいないって信じてたんだ。
頼むから、皆話を聞いてほしい。
玲奈、話せるか?」
どう話せばいいのか、何も考えがまとまらない。
「何から話せばいいのか・・・
みんな今朝、私の机を見て知ってると思うんだけど。
誰がやったとかではなくて、私は皆が大好きなんだよね。明るくて元気なみんなが本当は大好き。
ただ人見知りで、なかなか打ち解けられなくて、でもみんなとは仲良くなりたいの。ただ、やり方が分からないんだ。
幼稚園みたいに、みんな仲良くしましょうもへんでしょ?」
皆がクスッと笑った。
「実は昔から話し方がキツイとか、近づくと怒られそうとかずっと言われて、12年間いじめられてきた。そんな自分を守るためにそんなオーラ出してしまってた。
でも、自分じゃ分からなくなっちゃって・・・家族以外の人とまともに話すことなんかないから、自分では普通に皆と同じように話してるつもりなんだけど、やっぱりキツイって言われちゃう。
治したくても分からないんだ。」
ゆっくり時間をかけて自分の想いを伝えた。
「よく頑張ったな。みんなも腹割って話せよ。」
一人が手を挙げた。
「私、玲奈好きよ。ただ怖かったのはあるかな。でも、今話聞いて玲奈のこと理解できた。」
「私も好きよ。でもやっぱり怖かったよねぇ、笑わないし、どう話しかけていいのか分かんなかったよ。」
「いじめられてるのは知ってたけど、どうしてあげたらいいのか分からなくて放置してごめんね。」
皆の声が、心の中にある真っ黒く固いものを、少しづつ溶かしてくれた。
「みんな、ありがとう。」
翌日から目立つようないじめはなくなったが、今更誰かと仲良くなる事もなく、今までと変わらずただただ、卒業式を待つだけ、残りの日々を穏やかに1人過ごすだけであった。
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