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「……本当に幽霊だったんだよね、」
今宵の月も、一部分が真っ黒な空に齧られていた。
泉月奈は、公園のベンチに座って思った。
次にあの月の欠けている部分が元通りになるのは、一体いつだろう。
あの非現実的な夜から、月を見上げる癖がついた。夜の月は勿論のこと、真昼間の月もそうだ。夜とは違い、やや遠慮がちにまだ明るい空に浮かんでいるのが、月奈にはなんだか微笑ましく映る。
文化祭の劇はというと、無事に終えることが出来た。
配役の発表から練習まで、大変なことしかなかったのは事実だけれど、本番のパフォーマンスは心から満足出来るものだった。
それに、もう断る勇気を手に入れた。
文化祭後の片付けで、例の彼女から、これをゴミ置き場に運ぶようにとゴミ袋二つを押し付けられそうになった月奈だったが、それを引き受けなかったのだ。つまり、断ることが出来たのである。
誰かから見たら小さなことかもしれないが、月奈にとってはとても大きな、大きな一歩だった。
あれもこれも全部、夏月くんのお陰だな。
月奈は、ゆびきりげんまんを思い出す。
あの時、月奈は越智夏月の小指には触れていない。だけれど、温もりに似たようなものを感じた。
「実はここに居たりして、」
全部、もう大丈夫みたいだ。たとえ、心の糸がほつれたって。
月奈は立ち上がって、深呼吸をした。
ここの空気は、あの時の温もりと似ていた。
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