晩夏

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清孝と宮部は、浅間神社の別院に足を運び、関係者以外立ち入り禁止の禁域に入っていく。 別院は、森深い所にひっそりと立っており、それより更に奥が禁域となっている。 別院から20分程歩くと、祠が見えてくる。 清孝は、祠に近づき、祝詞を唱える。 そして祠の扉を開くと、石の塊となった鬼の手が祀られていた。 「ただの伝承、ただの石だと思っていたのだが、ほんまやったんやな」 そう呟くと、気難しそうな表情の宮部はただ頷く。 「美羽ちゃんが、、、そうやったのか」 ただ、ただ項垂れる清孝を宮部は労る。 「清孝様、これ以上はお身体に障ります」 「そうやな、、、」 宮部は清孝を支えながら、ゆっくり来た道を戻る。 石の手伝承 その昔、この村は人と鬼が共存していた時代があった。 あいのという、その村で一番美しい女性が、行き倒れていた、鬼を助けた。そして、村人もその鬼を怖がらず、看病してやった。 その鬼は、義理堅く優しい鬼で、村人の為にできる事はなんでも手助けをした。 そんな中でも、とくにあいのには、尽くした。 何時しか、あいのと鬼は互いを想うようになり、密かに恋仲になった。 ひっそり愛を育むはずが、あいのに思いを寄せる村人数人にその事がバレてしまう。 村人達は人間を誑かすなど、あってはならいと鬼を数人の男達で暴行し、鬼に火をつける。 鬼は、もがき苦しみながら燃えていく。 そのうち、鬼は炭になり、身体がポロポロ欠けて、粉になる。 ただ、手だけが綺麗な形のまま欠ける事はなかった。
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