出会い

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『ただいま』花音は、小さな声でドアを開ける。出来るだけ静かにゆっくりと。 それが最善の策だと身に沁みて分かっているから。 靴を脱ぎ、そっと部屋に入る。部屋と言っても6畳二間の小さな部屋だ。 その一室に眠る父を起こさぬよう息を殺して机にすわる。 宿題しなきゃ。 カバンから筆箱をそっと出す。前は鉛筆が床に落ちた音で怒られた。もう失敗はしたくない。そっと鉛筆を出し問題を解いて行く。 もうすぐお母さんが戻ってくる。 それまでは静かにしてれば何とかなる。 花音は自分が息を詰めていた事に気づき、そっと息を吐いた。 ふと今日の事を思い出す。 あの子の手大きかったな。 背もすごく大きかった。 本当に同じ年なのかな。 廉の笑った顔を思いだし、花音は少し温かい気持ちになった。 榊君にも案内してもらってすごく親切な男の子だったな。 クラス馴染めるかな。明日は女の子とも喋れるといいな。 花音はそんな事を思いつつ鉛筆を走らせた。
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