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『おはよう!』
至る所で元気な挨拶が交わされている。
花音は手に力を入れクラスに足早に入る。
まだ2日目だからやっぱり緊張する。
下を見つつ自分の机へ向かう。
『緑川さん、おはよう』
委員長が花音に向かって微笑んでいる。
『あ、お、おはよう』
『クラスまで迷わなかった?』
『だ、大丈夫でした。』
『そっか。良かった』
彼はそう言うと自分の席につき、カバンから荷物を出し始めた。
あ、昨日のお礼ちゃんと言えなかった。
ダメだな。私。
自分から話しかける勇気はまだ持てない。
きちんとお礼出来なかったな。
少し落ち込みつつ花音は席に着いた。
『おはようー!廉君!』
教室の入り口で女の子達が次々に挨拶している。一気に教室のテンションが上がったような気がする。
けれど、挨拶されたその人は女子とは目も合わせずスタスタとこちらに向かって来る。
花音の前まで来ると、ドカっと荷物を置きすぐに机に頭を沈めてしまった。
たしか名前は紫悠君だったよね。
花音が思い出しているとパタパタと足取り軽く女の子が前の席に近寄ってくる。
『廉君、おはよう!昨日、サッカー3点シュートしたの見たよ!すごいねっ』髪がクルクルした女の子が声をかけている。
けれど、前の彼は何も反応しない。
しばらく待っても反応がないため、痺れを切らしたのか女の子が男の子の体に触れようとしたその瞬間。。
ガバっと起き上がり彼が席を立った。
ガンっ!!
立ち上がった瞬間、彼の引いた椅子が花音の机とぶつかり衝撃音が鳴る。
ビクっ。
花音はその音に肩を震わせて思考が固まる。
一気に体温が低くなるのを感じる。
大丈夫。
大丈夫。
ここは学校。
あの人はいない。
だから大丈夫。
そう思うものの肩の震えは一向に止まらない。
震える体を止めるため手を握りしめ力を込めようとした瞬間、
パシっ。
温かい大きな手が花音の手を包んだ。
『ごめん。大丈夫か?気分悪い?』
花音はゆっくり顔を上げると、すぐ近くに彼の顔がある。
綺麗な目だな。
吸い込まれそう。
未だ手は震えて体は怖がるのに花音の意識は目の前の男の子に向かっている。
『和希、こいつ保険室連れて行く。先生に言っといて』
『了解。』
彼の大きな手が花音を教室から連れ出す。
『気分大丈夫か?歩けそう?』
心配そうに振り返りながら花音に言う。
大丈夫。そう言いたいのに繋がれた手の体温が高くて胸がドキドキして上手く話せない。
『驚かせたよな。ごめん』
彼はそう言いながら廊下を進む。
違うの。あなたのせいじゃないの。
そう言いたいのに、花音の口からは言葉が出ない。
温かい。男の子はみんな体温高いのかな。
そんな事を思いながら花音は彼について行った。
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