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夢の中で、懐かしい景色が花音の目の前に広がり思い出が蘇る。
小学校の体育館では、クラス対抗戦が行われクラスの皆が交代で試合に出ている。
花音達のクラスは2点差で勝っているが、相手のクラスもバスケットチームに入ってる子がいるためなかなか強い。
廉と和希の活躍で何とかリードしているが相手チームの追い上げがすごい。
廉はさらにシュートし点差を広げる。
ゴールが決まると、クラス全員が柳田の元に集まる。
『先生!いいですか?』
『絶対大丈夫なようにするから。』
『ラスト2分だから、絶対無理させないから』
柳田は腕を組み悩みながらう〜んと唸っている。
『先生、俺と和希で守るから大丈夫』廉は柳田に『お願いします』と頭を下げる。するとクラスの他の子達も皆頭を下げてお願いし始めた。
『分かったー!!絶対気をつけてやってくれよ!』と花音を押し出す。
『え?え?』コートの隅で見学してた花音は何がなんだか分からない。
『花音行くよ!』廉が花音の手を握る。
『緑川さん、投げるだけだから』花音の横で和希が笑う。
『行こうー!ラスト2分!』
『緑川さん!絶対回すから!』
『よっしゃー!』
花音以外のクラスメイトは状況を把握してるのかコートに戻り互いに頷いて体勢をとる。
廉と和希は花音の両側にいて花音の背中に腕を回している。
『これどういう事?私できないよ。走れないし、投げた事ないよ』花音は焦って廉に言う。
廉はうん。大丈夫。ここにいればいいから。と笑う。
『大丈夫。緑川さん頑張れ』和希はそう言うと相手チームの方を向く。
え?どういう状況?
私どうしたらいいの?
花音は焦って廉と和希を交互に見る。
『花音、和希がボール渡すから俺と一緒にボール投げよう』廉は花音の背中を優しくポンポンと叩く。
投げる?
花音の頭がパニックになってる間に、クラスの子が相手からボールを取りドリブルでこちらに向かってくる。
すかさず和希にパスが回る。
『はい、緑川さん頑張って』和希は花音にボールを渡すと相手チームの防御に入る。
いつの間にかクラスのチーム全員が花音の周りに集まり花音を守るように取り囲む。
『花音、いくよ!』廉はボールごと花音の手を握りボールを放つ。
高く上がったボールがバスケットゴールに吸い込まれていく。
ゴール!
ピーっ!!試合終了!
柳田のホイッスルが鳴り試合終了の合図となった。
『やったー!勝った!!』
『緑川さん!決まったね!』
『先生ー!勝ったよ!』
クラス全員が嬉しそうだ。
花音はあっという間の出来事に頭がついていかない。でも、皆が自分のためにしてくれたのだという事が分かり涙を浮かべる。
『花音!やったな』廉は両手を花音に向けハイタッチの体勢を取る。花音も両手を高く差し出す。
パンっ!
廉と花音は笑い合う。
花音は廉の優しい笑顔を目に焼き付ける。
廉君。
ありがとう。
君の笑顔は私の太陽だったよ。
思い出から解き放たれたように、うっすらと次第に花音の意識が上昇する。
ゆっくりとまぶたを開けた花音の目には涙が溢れていた。
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