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『花音、良かったな。』
匠は愛しい娘に声をかける。
『うん。心配かけてごめんなさい』
『無事でいてくれたんだ。謝る事はないよ』と匠は頷く。
『あのね、』そう花音は切り出し、伝えるかどうかを悩む。だが、夢の中とは言え伝えなければいけない気がして言葉を繋ぐ。
『眠っている間ね。お母さんが来てくれたの。それで私に戻るように言ってくれたんだけど』
『うん。』匠は花音の言葉を待つ。
お母さんがね、伝えて欲しいって。
『アナタにもらったクリスマスツリーが救ってくれた。ありがとう。たっちゃん』
そう言えば分かるからって。
『。。。。そうか。百合が。』
匠は目を伏せる。
『うん。お母さんが火事の時クリスマスツリーで窓を割って救助の人が気づいてくれたの。それに私がお父さんに捕まりそうになった時も、あれで助けてくれた気がする』
匠は目頭が熱くなり手で覆う。
百合、大切に持っていてくれたんだね。
あれは君と思いが通じてずっと一緒にいようと誓った日に送ったものだった。
君のそばにずっと置いといてくれたんだね。
ありがとう百合。
匠は、伝えくれてありがとう。と花音に告げ百合の面影が残る花音を見て微笑む。
百合、君からもらった宝物をずっと守るよ。
そう心に誓って。
その後、花音は再手術を無事に終えて日常生活に戻る事ができるまでに回復した。
花音が退院する時は、医者、看護師総出での見送りとなった。なぜなら片時も離れずに廉が側にいて優しく花音を見守る姿が見納めになると皆がこぞって見に来たからだ。
廉はあれからキッパリ芸能界を辞めて新しい人生を歩んでいる。
人目はまだあるし、なかなか一般人として生活は難しいが本人は至って普通に日常生活を送っている。
幼い頃から働いていた貯蓄額は、いつの間にか一生働かなくてもいいぐらいに膨れ上がっていて、さらに収入の一部を谷崎が株に投資してくれたため焦って仕事を探す必要もなかった。
働きすぎてたんだから少し休めよ。と和希に言われた事もあり廉はのんびりとした日々を送っている。
店に復帰した花音を見に行き、匠が入れてくれた珈琲を飲む。そんな何気ない日々の幸せを廉も花音も噛み締めていた。
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