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未来への光
明日、外で会える?
廉からのメッセージにOKのスタンプを送る。
クマが頭の上でOKの文字を持つスタンプは花音のお気に入りだ。
最近、廉は匠に珈琲の淹れ方を習っている。元々珈琲があまり得意ではなかった廉だが、匠が淹れる珈琲だけは美味しく飲めるので勉強を兼ねて教えてもらっている。
廉は手先が器用で物覚えが早いのでなかなか筋がいいと匠が褒めていたのを思い出し花音はクスっと笑う。
目を輝かせて匠に教わる姿は、まるで子供のようで廉の真っ直ぐな目がサッカーをしていた頃を彷彿とさせ花音は微笑んだ。
『廉君の事、好きなんだよね?』美和にそう聞かれた時、花音は好きよりももっと違う感情のような気がした。
廉といるとピッタリピースがハマるような。
側に居ないと落ち着かない気持ちになる。
それが好きという感情かどうか花音は分からずにいた。
ただ、廉を見ていると嬉しいし隣に居ると安心する。
ずっと一緒にいたい。
ただそれだけだ。
廉は約束の時間に花音を迎えに来ると、遅くなる前には帰ります。と匠に断りをいれて花音と一緒に店を出る。
『廉君、どこいくの?』
『花音に会いたがってる人がいるんだ。首長くして待ってるから』
廉は花音と一緒に電車に飛び乗る。
しばらく景色を見ながらたわいもない話で時間が過ぎていく。
徐々に目的地に近づくにつれ、懐かしい景色が姿を表す。
『あれ?』花音は外を見て自分が知っている景色である事に気づく。
『花音が記憶が戻ったら連れて行きたかったんだけど、辛い記憶もあるから匠さんに相談したんだ。連れて行っていいですか?って』
たぶん、大丈夫だよ。っと言ってくれたから。思い切って連れ出したんだけど辛かったらすぐ帰るから。そう廉は念を押す。
花音は次第に記憶とともにリンクする街並みを見て不思議な気持ちになる。自分は確かにこの場所に居た。そう思いつつ、少しだけ変わっている街並みにずいぶん時が経った事を実感した。
南部小学校まではタクシーを使い、駅からはあっという間に着いた。
事前に連絡していたため、事務室で来客の名前を書けばすぐ職員室に通された。
『先生。』廉が柳田に声をかける。
花音は職員室の廊下におり廉が合図したら入る事と言われてるため待機中だ。
『おぉ、紫悠!いきなり電話で来るって言うから心配したぞ。何かあったのか?』
柳田は座ってた椅子をクルリと廉の方に回し手を挙げて応える。
転々と色んな小学校に赴任した後、昨年度また南部小学校に戻ってきた柳田は相変わらずの熊のような体格だ。
『先生に合わせたい人いて。連れてきた。』
『え〜何だよ緊張するな!』と柳田は笑いながら答える。
廉は廊下にいる花音に『入って』と声をかけた。
花音はヒョコと扉から顔を出し柳田を見る。昔と変わらない大きな体をした懐かしい顔が見える。
柳田はいつも花音を心配しながら決して特別扱いはせず見守ってくれていた。そしていつでも笑顔だった。
その柳田が、花音を見て涙を貯めている。
『緑川〜』そう呟いて。
花音は部屋に入り廉の隣に並ぶ。
『先生、ご無沙汰してます』花音は笑顔で柳田を見る。
うん。うん。と頷きながら柳田はしばらくの間号泣していた。
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