出会い

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廉は結局その日、緑川に謝る事は出来なかった。 体調を崩した彼女は、そのまま1週間ほど休んだからだ。 毎日、後の席を見るたびに言いようのない気持ちが膨らんでいく。 明日はあいつ来るかな。 そう思いつつ、そっと後ろを振り返り見る。 そんな廉の様子を和希は見つめる。 廉が感情をあからさまに出すのが珍しいのと、人と関わろうとするのに驚いていた。 いい兆候なんだけど。 本来、廉は明るくクラスの中心的なムードメーカーだった。 幼少期から知る彼はいつも笑顔で、誰とでも仲良くなるタイプだった。 でも、あの事があってからはガラリと変わってしまった。 あの事故は目撃者も多く、廉を庇った父親を(いた)む声とそれにまつわる世間の声も様々だった。 廉の所為(せい)ではないのに、心ない声は小さな廉の心に意図も容易(たやす)く傷をつけた。 深い傷を。 『おはようございます』 小さな声が廉達の近くから聞こえ2人は声の方に視線を向ける。緑川だ。 『緑川さん、良かった。元気になったんだね』 『榊君、休みの間プリントとかポストに届けてくれたみたいでありがとう。』 彼女は丁寧に和希に頭を下げる。 『あの、』 緑川は組んでいた手をそっと離し廉に向き合う。 『紫悠君、迷惑かけ』 『ごめん!』廉は緑川の言葉を遮り謝る。 『俺が驚かしたからだよな。今度から気をつける。あの時、手を挟んだりとかしてないか?』 『うん。大丈夫。私が大袈裟に驚いたのがいけないから。紫悠君は悪くないです。 元々、体も弱くて。緊張が続いてたのも良くなかったってお医者さん言ってたし。』 『体調悪かったりしたら俺か和希に言えばいいよ。あまり無理すんな。俺は席が前だし和希は委員長だから。な?』 廉は和希を指差しながら彼女に相槌(あいずち)を求める。 『心配してくれてありがとう。私も気をつけます。』 そう言うと緑川は嬉しそうに微笑んだ。 笑った。 もっと見たいな。 廉は自分の気持ちに戸惑いながらも彼女が後ろの席に座るのを見つめた。
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