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『母親だけが仕事してるって言うならうちもだけどな』
廉は橘を冷たく見ながら言い放ち、教室に佇む微妙な空気を切る。
『だって!廉君家は仕方ないじゃない。』
『父親が死んでるからな』間髪入れずに廉は言う。『仕方なく仕事してるんじゃなくて、家族のためだろう。親も周りも。それの何がダメなんだよ。』
『ダメとか言ってないわ!』橘はムキになって応える。
『お前はさ、自分基準が正しいかもしれないけど皆が全てそうじゃないだろ。決めつけるなよ』
廉は吐き捨てるように橘に向かって言い切る。
花音は不安そうに廉を見ている。
『俺も父親いないからさ、母親が仕事してる。毎日一生懸命。だからお前の母親だって一緒だよ。頑張ってるだけだよ。』
廉は花音に優しい口調で言う。
『うん。ありがとう紫悠君』
花音は廉に微笑む。
『橘さん。家庭それぞれ事情もあるし、それを他人が言うのはどうなのかな。それに、君がさっきから言ってるのは個人情報に当たるよ。父親の仕事上、問題だからやめた方がいい。』
和希は橘の側に行き淡々と述べる。
『何よっ。。』
橘はスカートを翻し教室から出ていく。
『芽衣ちゃん!待ってよー』
取り巻き達が後をついていく。
橘が居なくなり教室内は再び穏やかな空気が漂いだす。
『和希は?やっぱ父親に聞くの?』
『うーん。別にこだわりないけど父親かな。他って言っても親戚も医者だからさ。』
『榊君家、病院なの?
もしかして榊総合クリニック?』
花音が驚きながら言う。
『そ、意味もなくやたらデカい病院です。』
和希は笑いながら言う。
『たぶん、私来月からお世話になります。』
花音はペコッと頭を下げる。
『え?体調悪いの?』和希は心配そうに言う。
『生まれつきちょっと人より心臓が弱いから定期検査を受けないといけなくて。でも最近はだいぶ調子いいんだよ』花音はニコっと笑いながら言う。
『そうなんだ。うちの父親にも伝えておくよ。友達がいくからって。』
『友達。。。』花音はつぶやく。
『え!友達だよねっ!俺達。』なぁ、廉。と和希は廉を見ながら言う。
『いまさらだろ。』廉は花音を見る。
花音は目を輝かせ『嬉しい!ありがとう。』と笑った。
その時 廉は、花音の笑顔をずっと見ていたい。そう思っていた。
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