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『昨日のだよね。ごめんなさい。』
体育の授業を見学中の花音が、同じく見学している廉に向かって頭を下げる。
『違うよ。朝方、道路の側溝にはまってさ。足やっちゃったんだよ。』
花音は目を伏せる。
見た目ほど、ひどくないから心配いらない。だから謝らなくていいよ。そう廉は伝える。
『それより、あれから大丈夫だった?』
『お母さんが帰ってくるまで、紫悠君が一緒に外で待っててくれて事情も説明してくれたから。お母さんも安心してたし、
あの人は、、、』
飲んで寝たら覚えてないの。
校庭で楽しそうな声がしている。
今日はドッジボールだ。
『昔はね、お父さん自分の会社やってて、何か投資?よく分からないけど。それが上手くいかなくて会社はダメになって、それからあんな風になったみたいで。
お酒飲みだすと、過敏になって少しの事で怒るようになったの。』
『お母さんも、疲れてて。お酒飲みだすと止まらないし、怒鳴るし。私はお父さんがいる部屋から閉め出されるから中で音がしても絶対開けるなって。』
『やったー!!あと1人!』
コートでは、和希だけが1人敵チームに追われている。
それを、ひらりひらり難なくかわしている。
『俺の父親はさ。普段はすごく優しくて何でも聞いてくれる人だった。だけど食事のマナーだけは物凄く厳しかったな。茶碗持たなかったら、パシってやられてた。』
花音は黙って聞いている
『だけど、交通事故で亡くなって。それは俺を庇ってなんだ。今も何で死んだのが父さんだったんだろうって思う。』
『紫悠君の中のお父さんは、いつも優しいんだね。思い出の中が優しさで沢山なんだね』
花音は廉を見て微笑む。
『わー!やばいー!!』
コートでは和希が1人また1人と当てて、とうとうお互い残り1人ずつとなっている。
『もし、、。』
『もし、何かあったら俺が必ず側に行くから。
だから花音は笑ってろよ。お母さんの元気の源だろ。』
『、、、、うん。』
花音は頷く。
コートでは、最後の敵チームの1人を和希が当ててゲームセットとなり、和希が廉達に手を振る。
廉と花音は手を振りかえし互いに笑った。
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