不穏な空気

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グリーンday当日は、朝から晴天で雲ひとつない青空だった。 柳田は早々に戦線離脱(せんせんりだつ)して腰に手を当てている。 『こらー遊ばないで真面目にやれー』 口だけ注意しつつその場からは動かない。 和希がゴミの仕分けなどを指示したりして忙しく動き回っている。 廉は花音を探して周りを見る。 花音の周りに数人が集まり声をかけている。花音は嬉しそうに頷き一緒にゴミを拾い始めた。 良かった。 友達できそうだな。 廉は和希の方へ行き『手伝うよ』と告げる。 『緑川さんは?』と気にかけている和希に花音がいる方向を指差す 『良かった。女の子達とも仲良くなれそうだね』和希の言葉に廉は頷く。 『あ、そうだ』和希は思い出したように廉をつつく。 『いつから緑川さんのこと名前呼びになったんだよ』 『え?』 『花音って呼んでるだろ』 和希から発せられる花音の名前に、廉は胸にモヤがかかったようになる。 『気がついたらそう呼んでた。』 『俺も花音って呼んでいいか聞いてみようかな〜緑川さんって少し言いづらいし』 『ダメだ。』 『なんで?』 『何ででも』 この話は終わりとばかりに廉はゴミ拾いを再開する。 そんな廉の態度に笑いながら、和希もまた作業を再開した。 花音は初めての海に感動しつつゴミ拾いの大変さを痛感していた。 でも、みんなとやる作業は楽しく、新しいクラスメイトとも仲良くできて楽しい1時間になった。 『よーし!そろそろ時間だから集合!!』 柳田が言いながらピッーと笛を吹く。 『終わったー!』 『長いよー1時間』 『めっちゃ取れたー』 みんな疲れているが元気だ。 『緑川さん、集合だって。行こう!』 隣で作業していた子が花音に話しかける。 花音は手にしていたゴミを持ち上げ体を起こそうとした。 ドンっ!! 誰かの体とぶつかる。 『きゃっ!!』 女の子が砂浜に転けた。 『芽衣ちゃん!大丈夫?』 転けた橘の近くに女の子が集まる。いつも橘といる子達だ。 『ごめんなさい!橘さん。』 花音は橘に手を差し出す。 『ケガしてない?』花音は橘にケガがないか見る。 『私こそごめんなさい、前向いてなかったから。』橘はそう言って花音の手を取った。 集合みたいだし、行きましょう。と周りの子達に声を掛けて歩いていく。 『緑川さんも大丈夫?』 花音は一緒に作業していた子に『大丈夫』と告げ集合場所に向かった。 『今日は、みんな良く頑張った!体も疲れてるから早く下校して帰れよー』 学校に戻り、帰りのHRをいつもより早く切り上げた柳田は腰を抑えつつ出て行った。 『廉、サッカーどうする?大和さんまだだって?』 『いや、軽くボールに慣れる感じならいいって』 じゃ行くか。和希は廉を促す。 『紫悠君、無理しないでね足。』 花音が廉に声をかける。 『大丈夫。気をつけるよ。また明日な』 廉は花音に手を振った。 花音も帰る支度をし席を立ち上がる。 『やだー!!ない!!』 橘が教室の真ん中で派手に叫んでいる。 『えー!ないの!』 『芽衣ちゃん落とした?』 異常に狼狽える橘の様子に、いまだ教室に残っていたクラスメイトが何事かと振り向く。 『どうしよう。あれ、お母様が作ってくれた髪留めだったのに。』 『芽衣ちゃん、大事にしてたもんね。』 『あ。あの時かも。』 橘は思い出したように花音を見ながら言う。 『緑川さんとぶつかった時に砂浜に落としたのかも』 『えっ!』 花音は驚き橘を見る。 『あの時、私転がったし、その(はず)みで外れて落ちたんだわ』 橘は泣き始める。 『芽衣ちゃん、泣かないで。』 『お母さんに理由言えば大丈夫だよ』 周りの子達が慰めるが、橘の泣いているようだった。 『ごめんなさい』 花音は、橘の所に行き頭を下げる。 『あれ、手作りだから売ってないし宝物にしてたくらい大事なものだったから』 そう言って友達と教室から出ていった。 どうしよう。 きっとあの時、落としたんだよね。 花音はその場から動けない。 『緑川さん、先生に相談した方がいいよ。 砂浜に落としたかどうかも分からないし、もしそうだとしても見つからないよ』 『そうだよ。だいたいクリーンdayの日は無くして困るものは身につけない決まりだから橘さんも悪いんだよ』 クラスの子達が花音に気にするなと言ってくれる。 『ありがとう。ちょっと考えてみる』 花音はそうつぶやき、みんなと別れた。
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