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花音が昨夜、救急搬送された事。
しばらく入院する事が朝のHRでクラスに伝えられた。
『先生!緑川さん大丈夫ですか?』
『何で入院?どこか悪いんですか?』
クラス中が花音を心配する声があがる。
『緑川は、少し体が弱いんだ。だから運動も制限されてる。あまり無理はできないから、もし何かあったら皆んなが助けてやって欲しい。』そう柳田は頭を下げると、授業を開始した。
『廉、緑川さんまだ面会できないみたいだから会えないけど、起き上がれるようにはなってるみたい。伝言あれば俺から担当の人にお願いしておくよ。』
放課後、和希が廉に話かける。
『うん。ちょっと考える。』
廉は花音に何もしてやれない自分が歯痒く、伝える言葉もうまくまとまらない。
『なんでも喜ぶよ。緑川さん。』
先にグラウンド行っとくぞ。そう言うと和希は廉の肩を叩き教室から出て行った。
手紙とかかな。
でも、何書いていいか分からないしな。
廉は花音をどうやって元気づけるかを考えながら、廊下を進む。
1階に降りようとした時、階段下の隅で女の子が数人固まり話をしていた。
あれ、うちのクラスだな。
何やら1人は涙目になり動揺してるようだ。
廉が下に降り始めると声が聞こえてきた。
『ヤバイよ。絶対!』
『隣のクラスの子が砂浜に救急車が来てたって言ってたもん!きっと探しに行ったんだよ!』
『でも私達は言われた通りにしただけじゃん!』
『それでも!まさか入院なんてっ。私もし緑川さんに何かあったらと思うと怖いよっ。』
『ちょっと声大きいって!』
パシっ!
廉は1階を駆け下り、1人の女の子の腕を取った。
『今のどう言う事?』
『廉君。。。。』
女の子達は目を大きく開き驚きを隠せない。
『今の話、どういう事か説明してもらっていい?』廉のいつもより低い声と冷たい目に女の子達は観念したようにポツリポツリと話し始めた。
あの日、橘がわざと花音とぶつかり転がった事。それが原因で橘の髪留めが落ちたんだと花音に伝えた事。その髪留めはお母さんの手作りで宝物にしているという事も。
でも、実際には橘はその日髪留めはしていなかった。女の子達はそう証言する。
自分達は、髪留めがなくなった事を同調して言うように指示された事。
話を聞いている間、次第に険しくなる廉の顔に怖がりながら女の子達は一連の話を伝える。
『ごめんなさい。こんな大変な事になるだなんて。まさか1人で探しに行くなんて思いもしなかった。本当にごめんなさい。』そう泣きながら女の子達は謝る。
『謝る相手が違うよ。今の話、柳田に話さないとダメだ。あそこに1人で行く事は学校で禁止されてるし、アイツのためにもキチンと柳田に説明してやって欲しい。』そう廉は頭を下げる。
『はい。今から皆んなで先生のところに行きます。本当にごめんなさい。』そう言うと職員室の方角へ向かって行った。
廉は怒りからくる苛立ちを拳にこめ、握りしめる。
そのまま校庭に出て、和希の元に向かう。
もし、今、橘に出会したら相手が女の子だとしても何をしてしまうか分からない。
それくらい今回の事は絶対に許せる事ではなかった。
『どうした?廉。何があった?』
廉の様子が普通でない事が分かり、和希は心配そうに廉を見る。
『。。。。』
口を開けば何か恐ろしい事を言いそうで、廉は口を紡ぐ。
『。。。。緑川さんの事?』
和希は根気強く廉が話すのを待つ。
『花音があそこに行くように橘が仕組んだらしい。』
『仕組んだって、どうやって?』
廉は、先程聞いた話を全て和希に伝える。
途中、怒りで暴言を吐きそうになったがどうにか感情を押さえながら伝えた。
『クソだなっ、あの女』
和希は足元にあったボールを蹴り上げる。
ボールは凄まじいスピードで壁にぶち当たる。
跳ね返ったボールがスピードの速さを物語るように遠くへと飛んで行った。
『和希。。。』
和希はいつも、冷静沈着で基本感情に波はない。その彼が感情をむき出しにして怒りを露わにしている様子に廉は驚いていた。
廉も和希も無言のまま立ち尽くす。
『お〜い!紫悠!榊!練習始めるぞ!!』
コーチの声が響き渡る。
『とにかく、今は緑川さんが元気になる事を考えよう。俺も先生に話をする。今までの事も。今回のは度がすぎる。』
和希は、行くぞ。と言うとコートに向かって走り出す。
その後ろ姿を見ながら廉も走り出した。
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