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『帰ったならお父さんに手を合わせなさい、廉』2階にあがろうとした廉に母の正子が声をかける。
『荷物置いたらするよ』
廉は正子の顔を見ずに2階に上がった。
紫悠家は母の正子、姉の愛そして廉の3人家族だ。廉の父は廉が7歳の時に交通事故で亡くなっている。しかもその事故は廉が原因だった。
小さな頃からサッカーを好んで遊んでいた廉を父はよく公園へ連れて行ってくれた。
その日もいつものようにボールを持って公園へ向かっていた。
公園に着いてからボールで遊ぶんだぞ。といつも父親に言われていたのに、その日はたまたま近所の人に父が声をかけられ時間を持て余した廉はボールを壁に蹴りながら遊び始めた。
力余って蹴りすぎたボールが跳ね返り道路に転がる。
廉は思わずボールを取りに行く。
そこにトラックが来ていたのも気づかずに。
『廉!!』
キキーっっ!!ドン!
『きゃー!!』
『人が轢かれたぞ!!』
『救急車呼んで!!』
その音だけが耳に異常にこびりついている。
父に抱かれた体温も父が最後にどんな顔をしていたかも思い出せない。
父はほぼ即死で、廉は骨折はしたものの父のおかげで命に別状はなかった。
それからの記憶は曖昧で、ただ父の亡骸に縋りつくように泣いていた母の姿は目に焼き付いていて鮮明に思い出せる。
姉の愛は、当時6年生だった。
葬式の間中、愛は廉の手を離さなかった。ずっと自宅に帰るまで握り続けていた。
母はしばらくの間、廉の目を見なくなった。
目が合ってもすぐに逸らされ、あぁ。自分のせいで父は死に家庭が壊れてしまったのだと思い知らされた。
それまで専業主婦だった母は慣れない仕事と家庭の両立でだんだんと笑わなくなっていった。父の保険金と家はあるけれど、子供2人育てていくには働くしかなかったのだと思う。
家庭の中で、姉の愛だけがいつも明るくいてくれたように思う。
愛が廉に毒を吐くのは、愛情の裏返しだと知っている。
廉が1人だと思わないように、私達は家族なんだと教えるように、いつも喧嘩をふっかけては廉の感情を出させようとする。
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