11.お父さんでもお母さんでもない呼び方

1/1
前へ
/83ページ
次へ

11.お父さんでもお母さんでもない呼び方

 ベル様に「お母さんになるの?」と聞いたら、逆だと言われた。僕がお母さん? 「僕、男の子だよ」 「奇遇だな、俺も男だ」 「……じゃあ、お父さんとお父さん?」  少し考えて、ベル様が違う呼び方を教えてくれた。向こうの世界で使っていた言葉なんだよ。 「伴侶の場合、強い方が旦那さんだ。だからウェパルは奥さんになる」  旦那さんと奥さん……初めて聞いた言葉だ。大きく頷いた。別の世界は知らないけど、僕は奥さんになる! 「ベル様は僕の旦那さんで、僕はベル様の奥さんになるの」 「そうだ、ウェパルは賢い」  褒めてもらって大きく尻尾が揺れた。新しい呼び方が気に入って、旦那さんと呼んでみる。なんか変な感じ、尻尾の付け根がむずむずする。 「やっぱりベル様がいい」 「俺もウェパルと呼ぼう」  呼び方はいつも通りにした。ただ他の人に説明するときは、旦那さんと奥さんにする。ちゃんと覚えた。 「ところで、魔王の居城は残っているか?」 「いいえ。人間に襲われた時に壊れて、今は廃墟ですよ」  一度見にいくことになった。他の種族と顔合わせもあると聞いて、分かったフリで頷く。あ、ベル様笑った? 僕が理解してないと思ってるでしょ! 半分は分かってるんだからね。  ドラゴン以外の、吸血鬼の人や狼男の人に会う話だよね。首を傾げて尋ねたら、驚いた顔をされた。僕は大人のお話もちょっと分かるんだから。 「もうすぐ大人なんだよ」 「いや……ああ、そうだな。早く大人になってくれ」  背筋を丁寧に撫でてもらい、腕の中でへにゃりと崩れた。そこ、気持ちいい。お母さんが舐めた時みたい。ふにゃふにゃしていたら、ベル様が腰をぽんぽんと叩いた。もう終わりの合図かな。 「ウェパルや、そろそろお腹が空いたんじゃないかい? 魔王様もお食事をされてから、移動してはいかがでしょう」  お祖母ちゃんの提案で、ご飯が準備される。僕は生のお肉を食べられるようになったばかり。小さく千切ったお肉をもらった。骨があると口に刺さるから危ないんだ。 「ウェパルは来ていますか」  お父さんが飛び込んできた。一緒にお母さんも。僕がここだよと手を振った。遅かったのは、途中でご飯を捕まえてきたからだ。手土産っていうの。大きな鼻の長い動物と、凶暴な縞々の動物。どちらもお肉が硬いけど、美味しいんだ。  じゅるりと口の周りを舐めた僕に、お母さんが肉を分けてくれた。本当はお祖母ちゃん達の分だけど、足の肉を少しだけ。硬い肉をもぐもぐ噛んでいたら、ベル様はすっと指先で肉を切った。  お父さんの炎みたいなので、すぐに焼いてしまう。薄く切ったお肉を、僕の口の前に差し出した。焼いたお肉は熱いと思う。 「ほら、口を開けろ。ウェパル」 「あーん」  お父さん達がしてくれる時は、あーんする。声を出して口を開けた僕は、柔らかくて温かい肉に驚いた。同じお肉だよね? 「美味しい! すごい」 「半生がいいのか。ならば、こちらも食べてみろ」  貰ったお肉を薄く切って焼くベル様は、僕がお腹いっぱいになるまで食べさせてくれた。それから残ったお肉を口にする。その姿に、ふと思いついた。  ベル様が焼いたお肉を、腕を叩いて「ちょうだい」した。受け取ったお肉をベル様の口へ運ぶ。 「ベル様、あーん」  周りが驚いた顔をしたけど、ベル様は笑ってお肉を食べてくれた。嬉しいな。次のお肉も待っているので、焼いたお肉を手で持って立ち上がる。  ベル様が楽しそうなのは嬉しいけど、早く食べてね。僕、背伸びしてるから転んじゃいそう。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

461人が本棚に入れています
本棚に追加