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17.魔王城はすぐ作らないの
魔族は新しい魔王様を選んだ。僕のベル様は、魔王陛下として認められたの。でも、認めない魔族も少しいるんだって。
「仕方ない。いきなり現れて、まだ実力も示していないからな」
「そうなの? ベル様は強いのにね」
お祖父ちゃんが認めたんだから、すごく強いと思う。そんなお話をしていたら、お祖母ちゃんが近づいてきた。本当は強さが分かるから認めてるんだけど、勿体ぶってる人もいるみたい。大人は複雑なのかな。
僕はベル様ならすぐ「いいよ」って言っちゃうけど。そう言ったら、お父さんとお母さんが慌てた。
「簡単に許可したらダメだ」
「そうよ、焦らして焦らして、価値を高めてからあげるの。お母さんはそうしたわ」
「……なるほど。そうだったのか」
なぜかお父さんが項垂れた。ぼそぼそと話すのは、お母さんに求愛して断られ続けた時のこと。お母さんはにこにこしているし、吸血鬼のおじさんは呼吸できなくなるほど笑い転げている。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんにやられたとか。
伝統なら僕もやるの? そう聞いたら、お父さんとお母さんは頷いて、ベル様は嫌そうな顔をした。
「焦らされると、襲うかもしれん」
「じゃあしない」
ベル様が嫌ならしないよ。でも何を焦らすのか、後でお母さんに聞いておこう。大人になったら分かるかもしれない。
「ところで魔王陛下、居城はここに構えますか?」
「直すようなら、ドワーフや巨人が力を貸しますぞ」
寄ってきた魔族の人は、口々に「魔王城は権威の象徴」と言う。権威は甘いのかな? 象徴は聞いたことある。分かったフリで、両方に頷きながら僕はベル様の腕にしがみついた。
「権威など、後からついてくる。俺のいる場所が魔王城だ」
維持するのも大変だし、すぐは必要ない。頭の上で難しい話が行ったり来たりする。僕はきょろきょろしていたら、疲れちゃった。ぐったりとベル様に寄りかかる。ぽんぽんと背中を叩く手が気持ちよくて、目を閉じた。
寝ちゃった? 起きたら、もう話し合いは終わっていた。集まった魔族の人は、運んできたご飯を食べている。
「ベル様も食べた?」
ベル様は食べてない。僕が起きるのを待っていてくれたの。お母さん達も皆、待っていた。ごめんね、次は起こしてね。
「野蛮な人間が襲って来るかもしれませんのでな、城は頑丈に作る方が良いですぞ」
ドワーフのおじさんが、真っ赤な顔で力説する。壊されたこの魔王城も、ドワーフが作ったんだけど。それより頑丈に作ると拳を振るって大声で話す。それを耳の長いお兄さんが止めた。
「うるさい」
「なんだと?!」
ベル様の前で、二人が睨み合う。次の瞬間、ぺしゃっと潰れた。ベル様は指先をちょっと動かしただけ。何があったんだろう。
「魔族同士で争うことは許さん。何かあれば俺が仲裁に入るゆえ、勝手に騒動を起こすな」
ただでさえ、人間という敵がいるのだ。仲間で争ってどうする! ベル様が低い声で叱ると、二人は素直に謝った。すぐに押し付ける力が消える。
やっぱりベル様が一番強い。その人の奥さんになるんだから、僕も立派な竜にならなくちゃ!!
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