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20.戦利品の木箱から甘い香り
ベル様は、俺のいるところが魔王城だって宣言した。だからかな? 次の日からいろんな魔族が会いに来る。奥さんである僕のお仕事は、ベル様に抱っこされること。癒しになるんだって。
「人間どもが攫った子どもの行方を掴みました」
三人目は吸血鬼のおじさんだった。真剣な顔で告げる。その言葉に、ベル様が頷いた。
「案内役を一人、それから子ども達の親を連れて参れ」
「承知しました」
僕が普段使う言葉と違う気がする。まいれ、とか。使ったことないもん。大人になるほど、難しい言葉が増えるみたい。僕も徐々に覚えなくちゃね。
ふんふんと頷く僕の尻尾が揺れる。そういえば、誰もベル様のお名前を呼ばないのは何でだろう? 皆、魔王様とか魔王陛下って呼ぶ。それはお仕事のお名前なのに。
「良く気づいたな、ウェパル。お前がドラゴンの末っ子と呼ばれるのと同じだ」
僕は確かに末っ子と呼ばれる。最後に生まれたドラゴンだからだよ。僕の他に卵が孵れば、その子が末っ子になるの。
「じゃあ、ベル様もいつかお名前が変わるの?」
「そうだな。変わるかもしれん」
じゃあ、いいか。ベル様って呼べるのは僕だけでいいや。吸血鬼のおじさんが飛んでいくのを見送り、僕はベル様の腕をぺちぺちと叩いた。
「僕、木箱の中見たい」
「何が入っているか、確認しておくか」
次の相談の人が来る前に、箱を開けよう。そう笑い合って、一つ目の箱に下ろしてもらった。大きな箱の上に小さな箱が重なっている。その小さい方の箱だよ。
くん……鼻に甘い匂いが届く。食べ物かな? わくわくしながら、ベル様が簡単そうに開けるのを見つめた。箱の上が壊れ、僕は背伸びして覗き込む。
「……何これ」
甘い果物かと思ったのに、違う。がっかりした。光る瓶が入っていた。中は黄色いけど、光で金色に見える。
「蜂蜜か?」
蜂蜜は違うよ。あれは四角と丸の中間みたいな穴が空いた塊に入ってるの。こんな瓶じゃない。サクサク食べられるんだ。
ベル様は瓶を一つ手に取り、蓋を開けた。中身を顔の前に出される。甘い匂いが強くなった。じっと見つめるだけの僕に、瓶の中身が付いた指を見せる。
「口を開けてみろ」
「あーん」
素直に口を開けたら、すごく甘い! ベル様の指が甘くて美味しくて、ちゅっちゅと吸った。最後は指の爪のところまで丁寧に舐める。
「色々問題があったな。次からは自分で食べてくれ」
問題はないよ。美味しかったし、鱗に溢してないから。そう説明したけど、ベル様は首を横に振った。
「お前は悪くない。大人には複雑な事情があるんだ」
「僕、早く大人になるね」
ベル様は困った顔で笑うだけ。蜂蜜はもうちょっと欲しかったので、瓶に片手を入れた。ぐるりと回してベッタリと付ける。手を抜いたら、すぐに垂れてきた。慌てて肘の辺りから上へ舐める。
でもまた垂れて、慌てて反対側も舐めて……あ、顔に付いちゃった。舐めるのに夢中で、気づいたらベル様が座っている。蹲る感じで、お腹の下の方を押さえた。
「痛いの?」
「……聞くな」
じゃあ、今度お父さんかお祖父ちゃんに相談してみよう。男同士なら、こっそり教えてくれるかも。
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