23.僕ね、胸のここが寒い

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23.僕ね、胸のここが寒い

 最後の箱は、見たことがない物が詰まっていた。硬くて黒くて、先が尖ってる。びっしりと綺麗に並んでいて、隙間に木の屑が押し込んであった。 「何? これ」  ツンツンと尻尾の先で触れてみるも、冷たいだけ。首を傾げた僕と違い、ベル様は怖い顔をしていた。 「武器だ」 「ぶき……」  戦う人間が持っていた武器は銀色だった。僕の指を痛くしたのは、違う色だよ。そう説明したら、武器には色がたくさんあるんだって。怖いな。  これはドラゴンや巨人でも痛い思いをするみたい。何で、誰かを傷付ける武器なんて作るんだろう。自分が切られたら痛いのに、誰かを切るなんていけないんだ。そう話す僕に、ベル様は笑った。 「そうだな。ウェパルは賢い。だが人間は愚かなのだ……馬鹿だから、何度も同じ失敗を繰り返す」  ベル様は少し考えて、明日吸血鬼のおじさんを呼ぶ話になった。たぶんお祖父ちゃんも呼ぶって。じゃあ、ご馳走を用意しなくちゃいけない。誰かをお招きするときは、ご飯を用意するのがドラゴンの決まりなの。  説明を聞いたベル様と、一緒にご飯を捕まえに行く。獲物がいる場所まで、僕は抱っこで移動。目を閉じて開いたら、森の中だった。吸血鬼のおじさんは血を飲むから、生きているご飯。ドラゴンは死んでるご飯でいいよ。僕は焼いたご飯がいいな。  両手を広げて説明し、大きさも伝えた。ベル様はすぐに魔法で動物を捕まえる。全部で八匹だよ。手で持って運ぶのは無理なので、ベル様の魔法で移動させた。洞窟の屋根がある部分にご飯を並べる。 「ウェパル、今さらだが……人間に捕まった時の話をもう一度してくれ」 「うん」  お母さんと寝ていたら、いきなり名前を呼ばれた気がしたの。目を開けたら、もう人間が目の前にいたんだ。そのまま捕まったよ。僕は戦えないし、飛べない。魔法が使えないから、ブレスも出来なかったの。  怖くてお父さんやお母さん、魔王様を呼んだんだ。その部分を詳しくとお願いされたので、覚えている限り伝えた。真剣に聞いたベル様は、額に口付けをくれた。 「怖かったな、二度とさせないから安心しろ」  ベル様は今日だけ、お父さんかお母さんとお泊まりするよう言った。どうしても確認したいお仕事があるんだって。僕も行きたいとお願いしたけど、危ないから無理みたい。  久しぶりにお父さんと過ごすことにして、お迎えに来てもらった。手を振るベル様に、めいっぱい手を振り返す。お父さんの背中に乗って飛び、熱い洞窟でマグマを浴びた。気持ちいいけど、ベル様と入ったお風呂の方が好きだな。  ベル様は何をしに行ったんだろう。明日お迎えに来る約束をしたから、大丈夫だよ。ベル様は僕に嘘をつかないはずだもん。ちゃんと明日会える。そう思うのに、どうしても寂しかった。 「お父さん、僕ね……胸のここが寒い」  こんなに熱いお家で、煮えてるマグマに入ったけど……ここが冷たいの。口を尖らせてそう告げたら、心配してもう一度マグマに入れられた。そうじゃないよ、ベル様がいたらならないの。そう説明したけど、お父さんは聞いていなかった。
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