03.お父さんとお母さんだ!

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03.お父さんとお母さんだ!

「っ、そんなことしていると食われるぞ!」 「僕は食べられちゃうの?」  きょとんとして尋ねる。指先から食べられたら痛いかな。さっき治してもらった指を、きゅっと握った。痛いのは嫌だな。ぺろんと丸呑みしてくれたらいいんだけど。 「……通じていないな。よい、それで構わん」  俺が大人げなかったとか、子どもに話しても仕方ないとか。ぶつぶつとベル様は並べた後、僕の頬に唇を当てた。驚きすぎて、目を閉じなかったよ。 「両親の得意な魔法はなんだ?」 「魔法……えっと、お母さんはお水、お父さんは燃えるやつ」  ぼっと火がつくの。うんと熱い場所でも平気なんだよ。でもお母さんは苦手で、いつも涼しい場所にいる。そう説明したら、少し考えてまた目を閉じてしまった。  お父さん達、もしかしたらお家にいないのかも。僕を探しにお外へ出たかもしれない。ぽんぽんとベル様の手を叩いて、そう説明した。頷いた後、ベル様が僕を強く抱きしめる。 「移動するぞ」 「あ、うん」  移動するのは魔法なら、離れてしまうと危ない。魔法を使った人と一緒にいないといけないの。怖いから強く抱きついた。お母さんやお父さんの時は、抱っこで移動だから。ベル様も僕を抱っこしているけど、いつもと違うからしっかりくっ付く。 「やばい可愛さだな」  ぼそっと聞こえた言葉に首を傾げる僕は、ふわっとした感じに慌てて目を閉じた。目を開けたまま移動すると、気持ち悪くなるんだよ。お母さんは「目が回ったのね」って言ってた。  目が回ったら胸がむかむかして、ご飯が食べられなくなる。それは嫌だから、きちんと目を手で覆った。でも左手はベル様を掴む。 「もういいぞ」  背中を撫でるベル様の声に、ゆっくり目を開けた。見たことがある場所だ! 「ベル様、僕ここ知ってる!」 「そうだろうな、そなたと繋がる糸を辿ったゆえ……」 「僕、ウェパルだよ」  どうして「そなた」って呼ぶんだろう。僕はそんな名前じゃないし、ちゃんと呼んでほしい。じっと見つめたら、困った顔で「ウェパル」と呼んだ。また背筋がぞくっとする。 「ウェパル? そこにいるのは、ウェパルなの?」  お母さんの声がして、ベル様の腕の中で振り返る。見上げるほど大きなドラゴンのお母さんは、空より薄い青の鱗がある。お父さんは炎みたいな赤い色なんだよ。足音を立てて近づくお母さんが、目の前で突然止まった。  じっとベル様を見た後、ドシンと音を立てて平べったくなる。それからグルルと喉を鳴らした。耳がぺたんと倒れる。  これ、知ってる。偉い人がきた時にやる仕草だ。お父さんはドラゴンの中でもすごく偉いから、滅多にないけど。前に魔王様に会う時は、こうやって挨拶したと教えてくれた。礼儀作法のお勉強で聞いたの。 「偉大なるお方、水竜が一族のライラがご挨拶申し上げます」 「大儀である。ウェパルの母君か」  難しい言葉が飛び交うので、きょろきょろと二人を見た。僕の知らない人達みたい。そこへお父さんが飛んできた。お母さんの後ろに降りて、同じ姿勢になる。お父さんは偉いんだと思ったけど、ベル様の方が偉いのかな。 「大いなる力を宿したお方よ。我が名はオリアス、火竜の長にございます」 「ふむ。ウェパル……両親で間違いないか?」  お父さんの挨拶を聞いて、ベル様は僕に尋ねた。だから「そうだよ」と笑う。お父さんがギョッとした顔をするけど、僕は悪いことしていない。怒られるかと思って、ベル様にしがみついた。  勝手にお家から出てないよ。お昼寝していたら連れてかれたんだもん。僕はお家にいたかったのに。その背中を撫でるベル様がくすくすと笑った。顔を上げれば、綺麗な顔が僕を見ている。 「安心しろ、叱られるのではない。まずは再会を喜ぶといい」  ベル様は難しい言葉を使う。でも僕をそっと下ろしてくれた。その手はとても優しい。お礼を言ってぺこりと頭を下げ、お母さんへ走った。半分くらい起き上がったお母さんに抱っこされる。お父さんが後ろから「心配したんだぞ」って舐めた。 「さて、重要な話がある」  ベル様が静かにそう切り出した。お母さんに舐められ濡れた僕は、ぶるると全身を震わせる。何のお話だろう。
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