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二人の女神
女神はいつも通りのんびり過ごしていて、今は長椅子で横になっていた。
平穏はこの女神の最も愛するところである。そのうち長いまつ毛がゆっくり上下し、「ふぁあ」とあくびがもれ、昼寝を始めようとした、その時。
「失礼するわよ!」
扉がバン!と開いた。
「あんた、あの王子にちょっかい出してるでしょ!?」
神殿の主に瓜二つの美しい姉――ややこしいので便宜上、姉女神とする――が入ってきた。
「あらお姉様ご機嫌麗しゅう」
女神は起きる。杖を振って、来客用の椅子とテーブルを用意する。
「な・に・がご機嫌麗しゅうよ! 王子が助かってるなんて聞いてないわ!」
「いいじゃない。たまにはこういうのも」
「私は! 悪役はざまぁみろってくらい惨めな目に合う勧善懲悪のお約束展開が好きなの!
悪役は表舞台から消え去ってもらいたいの!
なのにあいつ……幸せそうにしてるじゃない!」
妹女神はひょいと杖を振ってティーポットとお菓子を出現させる。優雅にティータイムを始めた。
姉女神のしかめっ面はなおらない。
再び口を開いたところで、黒猫がひょい、とバルコニーに現れた。
「女神様、お取り込み中すみませんが」
とててて、と女神の元へと寄ってきて、立ち止まる。
「お別れを、言いにきました」
女神がティーカップを持ち上げる手が止まった。ゆっくり黒猫へと視線を向ける。
「私に宣言したら、もうここには戻れないわよ。いいのね?」
「はい」
猫は真っ直ぐな目で女神を見つめた。
「あの人――リトからここを出る勇気をもらいました。私、この世界でがんばります」
「そう。なら行きなさい」
女神が杖を振ると宮殿の扉が開いた。リトがいる村の入り口が見える。
とてとて、と歩き出した黒猫は、一度振り返った。
「女神様、最後に一つお聞きしたいのですが……前に三日間寝てたのって、私のためですか?」
「さぁね、もう忘れたわ」
猫は微笑んだ。
「お世話になりました。ありがとうございました」
「元気でね」
「女神様も」
猫は去り、扉は閉まった。
姉女神は「訳がわからない」という顔をしている。
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