二人の女神

1/3
前へ
/17ページ
次へ

二人の女神

 女神はいつも通りのんびり過ごしていて、今は長椅子で横になっていた。  平穏はこの女神の最も愛するところである。そのうち長いまつ毛がゆっくり上下し、「ふぁあ」とあくびがもれ、昼寝を始めようとした、その時。 「失礼するわよ!」  扉がバン!と開いた。 「あんた、あの王子にちょっかい出してるでしょ!?」  神殿の主に瓜二つの美しい姉――ややこしいので便宜上、姉女神とする――が入ってきた。 「あらお姉様ご機嫌麗しゅう」  女神は起きる。杖を振って、来客用の椅子とテーブルを用意する。 「な・に・がご機嫌麗しゅうよ! 王子が助かってるなんて聞いてないわ!」 「いいじゃない。たまにはこういうのも」 「私は! 悪役はざまぁみろってくらい(みじ)めな目に合う勧善懲悪のお約束展開が好きなの!   悪役は表舞台から消え去ってもらいたいの!  なのにあいつ……幸せそうにしてるじゃない!」  妹女神はひょいと杖を振ってティーポットとお菓子を出現させる。優雅にティータイムを始めた。  姉女神のしかめっ面はなおらない。  再び口を開いたところで、黒猫がひょい、とバルコニーに現れた。 「女神様、お取り込み中すみませんが」  とててて、と女神の元へと寄ってきて、立ち止まる。 「お別れを、言いにきました」  女神がティーカップを持ち上げる手が止まった。ゆっくり黒猫へと視線を向ける。 「私に宣言したら、もうここには戻れないわよ。いいのね?」 「はい」  猫は真っ直ぐな目で女神を見つめた。 「あの人――リトからここを出る勇気をもらいました。私、この世界でがんばります」 「そう。なら行きなさい」  女神が杖を振ると宮殿の扉が開いた。リトがいる村の入り口が見える。  とてとて、と歩き出した黒猫は、一度振り返った。 「女神様、最後に一つお聞きしたいのですが……前に三日間寝てたのって、私のためですか?」 「さぁね、もう忘れたわ」  猫は微笑んだ。 「お世話になりました。ありがとうございました」 「元気でね」 「女神様も」  猫は去り、扉は閉まった。  姉女神は「訳がわからない」という顔をしている。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加