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クロエの物語
村を出て、知らない道をゆく。不安はあるけれど、隣を見ればリトがいて、私は嬉しくなる。
まさかこんなことになるなんて、転移した時には思ってなかった。
「ようこそ、遠き星の人の子よ。
――さあ、あなたの名前は?」
召喚された時、私は突然のことに戸惑っていた。
真っ白な、石造りの……神殿みたいなところに、制服姿の私は座り込んでいた。
「どうして……私、学校で飛び降り自殺したはず……」
頭にフラッシュバックする、過去の記憶。
私をいじめるクラスメイトたち。黒板への心無い落書き、傷をつけられたバッグ、破られた教科書、プールに投げ込まれたスニーカー。
親にも心配をかけると思って相談できず、どんどん追い詰められていった。
「いじめられるのは私が悪いからだ、私さえいなくなれば」
そんな思いでいっぱいになって――5階の教室から飛び降りた。
「そう、確かにあなたは飛び降りた。そのタイミングで私の召喚魔法が発動したってわけ。助けられてよかったわ」
「そんなこと……可能なんですか」
「女神ですから」
そしてウィンク。私は拍子抜けした。
なんだかこの女神様は、私が物語で触れてきた女神とは違う。とっても人間味があって、どこかゆるい雰囲気もある。
「――それで、名前は?」
「黒崎……美代といいます」
「クロサキミヨかぁ……うーん」
女神様は杖をまるでマッサージ道具のようにして、肩をぽんぽん、と軽くたたいた。
目を閉じて何事か考えているかと思ったら、ぱっと顔を明るくした。
「じゃあ、クロエにしましょ」
「え?」
「せっかく異世界転移したんだもの、自殺するほどつらかった人生は置いておいて、新しい名前で新しい人生を生きるといいわ」
「クロエ……」
「よろしくね、クロエ」
私は小さな声で「はい」と答えた。
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