漂着した少年

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漂着した少年

 ザザーン、ザザーン……。  波が打ち寄せる音で目が覚めた。  暑い。  「うっ……」  全身ずぶ濡れ、砂まみれ、生臭い(にお)い。立ち上がるのにも体力を使い、体のあちこちが痛んだ。  口の中の砂を吐き出す。照りつける太陽が目まいを誘う。  ガンガンと痛む頭を押さえてあたりを見回す。  見覚えのない、狭い浜辺。人気(ひとけ)もない。 「俺は一体……どうしてこんなところに……」    つぶやいてみたが、答えはない。頭の中にも思い浮かぶ名前はなく、それどころか、すべての記憶が白い霧の向こうに隠れてしまったようだ。  何も思い出せない。記憶喪失、というやつらしい。  着ている服を探って、身元がわかるものを探した。海水で汚れてはいるが、生地がしっかりしている。それなりの身分ではあるらしい。海藻をはがしながら上着内側のポケットを探ると、ペンダントが出てきた。謎の紋章入りの青い宝石がついている。今の自分にはよくわからない代物だった。 「とりあえず、綺麗な水で体を洗いたい……」  俺は浜辺を登り始めた。あの丘の上まで登り詰めればなにか見えるだろう。人家か、川があればいいのだが。せめて日陰に入りたい。  歩くたびに湿った靴底がぐしゅぐしゅと音を立てる。ため息を吐き、靴を脱いで靴紐を結んで肩にかける。臭いが気になるが仕方ない。  歩き出すと、とたんに空腹を覚えた。  俺は、いつから食べていないんだろう。 「なんでこんな目に……」  船から落ちたのか、はたまた神の怒りでも買ったのか。  わからない今は、ただ歩くしかなかった。  
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