猫と女神

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猫と女神

「なぁに、お前あの少年が気になるの?」  突然声をかけられた黒猫はビクッとした。全身の毛が逆立つ。  天上の宮殿、その一室に置いてある水晶玉には、浜辺に漂着した少年が映し出されている。 「いや、まあ……」  赤いリボンを首につけた猫はそっぽを向いて前足で顔をこすった。しばらくその様子を見ていた女神は、隣にしゃがみこむ。水晶玉に目を戻し、首をかしげる。 「……どっかで見たような顔ね」  女神は立派な魔法の杖で、左右の肩を叩く。猫は女神の前にとててて、と走り寄り、リズムに合わせて無意味に顔を左右に振った。  ぽん、ぽん、ぽん、ぽーん。 「あ、思い出した。セレイス国の第二王子でしょ?」  猫はサファイアブルーの目で、水晶玉をちらりと見た。 「確かに。あなたのお姉様が異世界の少年イリセ・アキラを送り込んだ国の王子ですね」 「なんでそれがこんな僻地(へきち)に流れ着くかな。あれかな、いわゆる『ざまぁ』系かな?」  女神の口調は、だんだん早くなる。 「また異世界から来たチート能力人間に嫉妬して、権力を笠に着て(いじ)めて、糾弾(きゅうだん)されて国外追放でもくらったってとこかしら」  今度は猫が首をかしげた。 「……そんなに悪い人には見えません」 「暇だし書庫で調べましょうかね。よいしょっと」  女神は立ち上がってうーん、と背伸びをした。猫もつられて体をうにゃーんと伸ばす。 「あーもう、ただでさえ人間多いのに、お姉様ったら最近異世界転移とか召喚とかしすぎなのよー。流行ってるからって毎月5人は多すぎでしょ。規格外の能力付けすぎだし。世界のバランス崩れるわよ……」  気だるげに延々と愚痴を吐く女神は、魔法の杖を振りながら書庫へ向かった。  猫もとてとて、と足音を立ててその後に続く。しっぽが左右に揺れた。
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