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少年と少女
目を開けると、少女の顔があった。
「気がついたみたいね」
少女はほっとした様子で微笑む。俺は反射的に半身を起こそうとした。
だが。
「……うっ!」
痛みを感じて、すぐまた後ろに倒れ込んだ。
「じっとしてて、水と食べ物持ってくるから」
ぱたぱたと、少女の足音が遠ざかっていく。
俺は改めて、周囲を観察した。
海水で汚れていた体は清められたらしく、嘘のように爽やかな気分だ。
そして、普段住んでいる建物と様子が違う。床も壁も、木でできた部屋に俺はいた。寝かされているのは簡素な寝台だが、あの浜辺からすると天国だ。開いた窓から光とともに風がそよそよと吹き抜け心地よい。
「……あれ?」
そこまで考えて、俺の思考は止まった。
「普段住んでいる建物」?
「思い出した……のか?」
目を閉じると、頭の霧はわずかに晴れ、美しい白い城の記憶が垣間見えた。回廊を歩き、バルコニーから豊かな街並みを眺める。
周りには、豪奢な服をまとった人々。俺を見ると笑顔になり、何事か話しかけてくる。
手探りであたりを探すと、枕元にペンダントがあった。
今はその紋章も覚えがある。王家の紋章だ。
「俺は、セレイス国の第二王子。リヒト・ヴァインシュテール……」
名前も思い出した。けど、なぜここにいるのかわからない。
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