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少女が戻ってきた。木の器に水を汲んできてくれた。ありがたく飲み干す。
「助けてくれてありがとう。あの、俺なんでここに来たか覚えてなくて……」
そこまで言って、彼女が置いた皿に目がいった。黄色い果実と、麦がゆに似た白っぽい食べ物。ごくん、と喉が鳴る。
「食べて。話は後でいいよ」
「ありがとう!」
麦がゆだと思ったものは、芋をつぶしたものらしい。一口食べるとまた一口欲しくなる。果実も甘酸っぱくて美味しい。
少女は勢いよく食べる俺を満足そうに見守る。
「昨日は村までふらふら歩いてきて、倒れちゃったの。なかなか起きないから心配してたんだよ」
「あ、俺は……」
名乗ろうとして戸惑う。万が一、ここは母国が敵対している国ということも考えられる。身分は伏せた方がいい。
「俺は、リト」
「私はクロエ。よろしくね」
話すうちに、ここは母国から遥か南の国の、端の村だとわかった。確か友好条約を結んでいるはずだ、と思い出し安堵する。
俺は半袖に膝丈のサラサラした生地の服を着せられていた。普段着ている鮮やかな刺繍の入った服よりあっさりした造形。動きやすくはあった。
こんな調子で、小屋のいろんな物を見るたびに俺の表情が変わるからクロエが気にした。
「何もかもが俺が住んでた土地と違うから、見る度に記憶がよみがえるんだ」
「じゃあ、もっと元気になったらいろんな物を見ましょう。
村を案内するわ」
「ありがとう、クロエ」
クロエは一人暮らしだそうだ。手当に食事、村の案内まで。なぜここまでしてくれるのか不思議だったが、申し出はありがたかった。
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