書庫の女神

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書庫の女神

 ふみふみふみふみ。  猫の足が女神の背中を押す。 「うーん、気持ちいい……」 「女神様ー起きてくださーい」 「あ、なんだお前か……気持ちいいからあと百回くらい頼むわ」 「承知いたしました爪を出しますね」 「ドS《エス》ぅ」  黒猫はぴょん、と女神の背中から飛び降りた。床にうつ伏せで倒れていた女神は、その姿勢のまま大きくあくびをした。 「さっさと起きてください、もう人間世界で三日は経ってますよ」 「いやー久々に本読むと眠くなっちゃって。てかお前もその間私のこと放っておいたの?」 「私も忙しいんです」 「……そう」  女神はよっこらせ、と立ち上がった。その手に本が一冊。背表紙に「転生者イリセ・アキラ」とある。  黒猫は周囲にぐるりと目を向ける。  書庫には、異世界から来た者について書かれた本が収められていた。  姉妹の女神の共有の場所だ。 「女神なら世界のことはなんでもお見通しだろう」と黒猫は考えていたが、そういうものでもないらしい。女神曰く、「なんでもかんでも見ようとしたら、頭痛がしてくるのよね。そのうち頭パーン! ってなっちゃうわ」とのこと。  使われている語彙が幼稚なのが気になったが、ともかくそういうことらしい。 「さて、なんで王子があんな目に合ってるのかな……この転生者で合ってるといいんだけど」  女神は細い指でページをめくる。
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