書庫の女神

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「イリセ・アキラは転生後、田舎ですくすく育っていた。ある日、森で魔物に襲われていたセレイス国の騎士団長に出会う。  とっさに放った魔法で魔物から彼を救い、力を認められた彼は王都に行き、騎士団の訓練を受ける。  彼はみるみるうちに優秀な魔法騎士としての頭角を現す。そして、エルフ族の美しく優しい姫、ソフィアに惹かれていく。  そんな中、ソフィアの婚約者である、第二王子のリヒトに嫉妬され決闘を申し込まれる。もちろん勝利。  リヒトは卑怯な手を使ったと皆から責められ、エルフ族の姫との婚約を破棄されて姿を消す……。  なるほどね」  黒猫も本棚の上からのぞきこんできたが、後はイリセとソフィアが魔王退治に旅立ったところで記述は終わっていた。  女神はパタン、と本を閉じる。 「第二王子のリヒトにはそんな過去があったのね。あの浜辺にいたのは……大方、国外へ向かう船が難破してあそこに流れ着いたんでしょう」 「そうなんですか」 「今の時期は東の海に嵐がいくつも発生するから、巻き込まれたのかもね。  さて、イリセの記録では、彼は姫との仲を裂こうとする悪役なわけだけど。  でもねぇ……これって異世界から来た側の記録だからねー。視点が変わればこの王子も意外といい人だったりして」 「そうですよね!」  素早い返事に女神はじっと猫を見上げた。 「なんか、ホントお前、彼に入れ込んでない?  なぁに? ああいうのがタイプなの?」 「いえいえ、ちょっと気になるだけですよ」  猫はそそくさと書庫から抜け出した。  女神はその後ろ姿を思案顔で見ていたが、やがてそっと本を元の棚に戻した。
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