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【7】
闇の街の空中を突き進む七尾、紫貴。そして拘束されている美永。
数え切れない銃弾が、三人を襲う。
灰色の風でそれを防ぎつつ進む。
進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んで進んだ所で、ようやく見えて来た――
ようやく――
見えない所から銃撃した物の影が、薄らと見えて来た。
「ようやってくれたなぁ、こんだけ遠い所から……ようやってくれたわ、ホンマ……一億倍返しにしたるから! 覚悟しときや! あほんだら!!」
血気盛んに、その影に近付く三人。
近付き。
近付いてようやく――
その物体の大きさに気が付く事が出来た。
その物体は巨大で、その真ん中部分に巨大な大砲を携え、その左右に拳銃が埋め尽くす程配置されている。
それがふわふわと浮いている訳だが……
互いの大きさを例えると、その巨大な拳銃大砲がクジラ……七尾達人間の大きさは、カエル――といったところだろう。
それ程に巨大な物体が、彼女達の前へ立ち塞がった。
七尾は呆然とそれを見上げ、立ち竦む……「な、何やこの……大きさ、わ……」と、声を落とす。
「狼狽えんなや七尾!! 前に進むしかないんやろ!? アレ、ぶっ潰すしかないで!?」と、激を入れる紫貴。
「う、うん……そ、そうやね! よし! やったる――」
その瞬間、真ん中に位置する大砲が、三人に照準を絞った。
大砲の発射口が、眩く光り出す。
「お、おいおい……まさか……!?」紫貴が冷や汗を流す。「七尾! こりゃ攻撃しとる場合ちゃうで!? 守りや!」
「言われんでも分かるわ!! ――灰色の風! もっと舞え!!」と、七尾が叫ぶと、纏っていた灰色の風が更に激しく舞い上がった。
激しく舞い上がり――更に防御を強固にした。
大砲の発射口から砲弾が発射される。まるでレーザービームの様なソレが、三人へ襲い掛かる。
それは灰色の風に直撃する、そのレーザービームを弾く……「ぐっ、ぐぉぉおおぁぁああ!!」七尾が耐える。耐える。耐える――
が、徐々に押され始める。
左脇腹の痛みもあってか、全力が出せないのだ……いや、例え全力を出せたとしても――
このレーザービームは防ぎ切れなかっただろう。
そして――
灰色の風が完全に消え去ろうした、その直後、「あかん!!」紫貴が判断し、七尾を抱え、彼女の風から飛び降りた。
その瞬間、「!? っえ……」美永を支えていた浮力が失われ……彼女の身体も落下を始める。
その為、レーザービーム自体は回避する事が出来た。が――
落下をする紫貴、七尾と、美永の三名に向けて――左右に装備されている数百の拳銃の銃口が向けられる。
「兄貴ぃ……!」ぎゅっと、七尾は紫貴の身体を掴む。
「任せろ! 必ず守っちゃる、何いうても……お前はワイの妹なんやからなぁ!!」
紫貴は再び、紙手裏剣を取り出し、それを投げ爆発させる。
拳銃は破壊出来なかったものの、目くらましにはなり得た為、難を逃れる。
けれど――
その皺寄せは……全て、別方向に落下している美永へ向けられる。
当然、それは紫貴も理解していた。
理解した上で――「堪忍な……」その作戦を取ったのだ。申し訳なさそうな目で、落下していく美永を見つめている。
七尾と紫貴が目くらましに成功した事で――全ての銃口が美永へと向けられた。
一般人には……たった一丁のたった一発の銃弾で致命傷となる拳銃が……数百を超える拳銃が一斉に無防備な美永を襲おうとしている。
美永は、もうダメだなと……思った。
一般人の美永には、一丁の銃弾を避けるのも奇跡なのだ。にも関わらず、あの数の銃弾を……身動きの取れない空中で全て回避するのは不可能だ。
確率――零パーセントだ。
美永の死亡は必然だった。
「……あーあ……私の最後ってこんな感じなんだ……、最期の最期まで、他人に利用された人生だったなぁ……」
美永は、穏やかな表情で、自嘲するかのように笑い、呟く。
「……最後は、あんな訳の分からない奴の囮で死ぬとか……ほーんとついてないや……私……何の為に生まれて……何の為に生きてたんだろう? ……形的には、あの除霊師のあいつらを救う為? に、なるんだけど……あんな奴らに、私……踏み台にされるん、だぁ……」
徐々に、その目から涙が溢れ出す。
「悔しいなぁ……悔しいよぉ……やだよぉ……死にたくないよぉ……私……あんな奴らの為に死にたくないよぉ……死ぬならぁ、もっと別の死に方が良い……こんなのヤダよぉ……助けて……」
拳銃の一斉発砲が始まる――
「助けて……
幽野ぉぉおーーーー!!!」
その時――
地上から――神々しく巨大な黄金の龍が現れた。
その黄金の龍は――拳銃の一斉発砲よりも早く、拳銃大砲に喰らいついた。
そして、軽々と巨大な拳銃大砲を噛み砕き、粉々に崩壊させた。
「え……今のって……」
そう……美永には、通り過ぎた黄金の龍に見覚えがあった。
それもその筈、彼女はかつて、あの龍を見た事があるのだ――高校一年の冬に。
「ごめんねー……待たせちゃった」
背後から掛けられたその声は――
「ゆ、うの……」
「怖かったねー、もう安心してー、大丈夫だからさー」
彼女が待ち望んでいた男――
幽野怜のものだった。
怜は、しっかりと美永の身体を抱き締め、「つーかまーえた!」と笑った。
美永は涙を流しながら……「バカっ……」と、微笑んだのだった。
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