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【3】
「どうぞー」
「あ、はい……ありがとうございます」
女性は保健室内に招かれ、椅子に座っていた。
今はちゃんと服を着ているが、先程まで全裸だった変態と言うべき男性が、ご丁寧にもコーヒーを用意した事に内心少し驚いている。
「ん? どーしたのー? 飲まないのー?」
「あ、いえ、その……こんな廃校舎で、電気も通ってない筈なのに、何でこんな湯気がたつようなコーヒーを作れるのかなと不思議に思って……」
「インスタントのやつだよー、お湯を入れるだけのやつ! 」
「いや……着眼点はそこではなく……そもそもお湯をどうやって……電気も通ってない筈なのに……」
「ああ! そういう事ねー、説明面倒いから直接見てもらおっかー」
そう言うと、元全裸の男はボロボロの机の引き出しから札の様な物を一枚取り出した。
「見ててねー」
その御札には『ありがたい御札』と大きく書かれてある。女性はそれを確認し、何か胡散臭いなぁ……等と思っていた。
しかし、その御札の色が突然変わる。
白から赤色へと。
「おっとー」と、慌てるように元全裸の男は赤くなった御札を机の上に置いた。
ジュッ……という音がした。
「人差し指」
「え?」
「人差し指で軽く触ってごらんー、軽くだよ?」
「は、はい……」
言われるがまま、女性は人差し指で赤くなった御札を触る。
触った瞬間――
「熱っ!」
「ね? 熱いでしょ?」
頷く女性。何が起こったのか分からないようだ。手品じゃないのかとも疑っている。
「言っとくけど、手品じゃないよー。これはこの御札の力」
「御札の?」
「うん、最近の御札は凄く便利でねー。IHの役割も果たしてくれるし、ほらアレ見て」
元全裸の男は電球を指差す。
正確には電球があるべき場所を、だが。
だがと言うのも、その電球に光は灯っておらず、光っているのはその電球にびっちりと貼り付いている黄色い御札だからだ。
元全裸の男が指差したのはそれなのだ。
「あ、この部屋だけ明るいのは御札を貼ってあるからなんですね」
「そ、御札には色々効果があるんだよー。当然――幽霊を殺す効果も、ね……」
元全裸の男の目が途端に鋭くなる。
「さて、前置きはここまでにして、そろそろ本題に入る事にしようかー……当然、女の人がたった一人でこんな所まで来たのには理由があるんだよねー? 数端 理恵さん?」
女性は目を見開く。その理由は、名乗ってもいない筈の自分の名前を、ズバリ、目の前の男が言い当てたからだ。
数端理恵――という女性の名前を。
「ハハハ、何で名前が分かったの? って不思議そうな顔してるねー、でも、理由は分かるでしょー? だってボクは霊が見えるんだから」
元全裸の男は続ける。
「霊が見えるなら、当然君の守護霊も見える。見えるという事は話せる――だから君の守護霊から君の事を聞き出した、それだけの話だよー」
ここまで聞いて、数端は希望を持った。
「おっと、僕の方の自己紹介が遅れたねー」
この人なら……
目の前に全裸で現れたこの男なら――
「ボクの名前は――」
自分の事を救ってくれるかもしれない……と。
「幽野怜――ゴーストバスターだ。よろしくねー」
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