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【4】
数端恵美のスマホ画面には『1』の文字が大きく描かれていた。
その『1』は、スマホの画面に入り切るか入り切らないかの大きさで、真っ赤な字だった。
それもパソコン入力した時の綺麗な違和感を少し感じる書体ではなく、まるで血でダイイングメッセージを残すような、そんな生々しい字で『1』と書かれていた。
しかし、特筆すべきはその背後である。
その『1』を握り潰そうとしているかのような、細く、やせ細った、まるで老婆のような手が禍々しく写っている。
まるで、次はお前を握り潰すぞと言わんばかりの威圧感で……
「おー、なるほどねー」
そんな不気味なスマホ画面を、ニヤニヤした表情で見つめる怜。
「分かりきった事きくけどー、これ、数端ちゃんが自分で選んだ画像ではないよね?」
「もちろんです……私……昔からホラーはダメで、こんな怖い画像待受にしたりしませんよ……」
「だよねー」
数端の言葉に、怜はニヤニヤ顔を止めない。
「な、何か分かりましたか?」
「かなりの怨念みたいな物を持っている事は分かった」
そして怜は言う。
「このままだと、『1』の次に握り潰されるのは数端ちゃんだね」
真っ青な顔になる数端。
しかし、まるで余命宣告のような言葉を受けたにしては、思いの外冷静だった彼女を見て、怜は少し違和感を覚えた。
「そこそこ反応が薄いね」
「冗談言わないでください……怖いですよ、めちゃくちゃ怖いです……『1』の後死ぬんですよ? 冗談じゃない……」
「でも、その事を知ってたって反応だけどねー?」
「え?」
「普通さー、こういうカミングアウトを受けた時、皆腰抜かして、ビビってガクガク震えておしっこの一つや二つ漏らすもんなんだけどー、貴方にはそれがないもんねー?」
「も、漏らしたりしませんよ!! ……ですが、知っていた事は認めます……」
「やっぱりー」
「別に隠してたつもりはありません……ただ……あまり言いたい事では無かったから……」
数端は、何かを思い出し、自分の体を抱きしめつつ言う。
事の発端は二週間程前――
数端達の地元には、幽霊が出るというトンネルがあったそうだ。
若気の至りか、はたまた溢れる好奇心を抑える事が出来なかったのか、数端達は友人と二人で、そのトンネルの中に肝試しに行ったそうだ。
真夜中の二時に。
「思い切った事したねー、そのトンネル、ボク達ゴーストバスター界でも有名なトンネルだよー?」
「はい……バカだと思います……それで……」
数端とその友人は見た……見てしまった。
トンネルの奥、暗闇から1本の手が伸びて来たのを……細く、か細い、まるで老婆のような手が伸びて来たのを……見てしまった。
二人は急いで振り返って逃げた。
逃げて逃げて逃げて、車に飛び乗り、そのトンネルから脱兎のごとく離れた。
そして、その後は何も無かった。
無事に逃げ切れた……そう思った。
しかし、友人がとある事に気が付いた。
スマホがない――と……
「うわぁ……やっちまったねー」
「はい……私はもうスマホは諦めようって言ったんです、だけどその友人は……」
どうしても取りに行きたい! 行くの! と聞かない。
なので、翌日の昼間、明るい時間に取りに行く事にした。
明るいトンネルは、怖くなかった。まるで昨日の事が悪い夢だったのではないかと錯覚する程……
そこには、細く、か細い、老婆のような手は無かったから。
だからスマホの回収は簡単だった。
その後、普通に1日を過ごし、また夜更かしをして二人一緒に遊んでいた。この時、スマホ画面の異変に気付いた。
深夜二時――あの、細く、か細い、老婆のような手と共に『7』の文字がスマホの画面に。
「七……ねー」
そして、その数字は深夜二時を迎える度に減って行ったのだという。
『7』から『6』へ……そして、『0』に……
すると友人のスマホ画面から、例の細く、か細い、老婆のような手が飛び出して来て、友人を掴み、スマホの中へ引きずり込んで行った。
友人は行方不明……その上……
「今度は君のスマホに、その画像が表示されるようになった、という訳かー、踏んだり蹴ったりだね」
「はい……もう、あの時何故トンネルに行ってしまったのか……何故スマホを取りに戻ったのか……友人を助ける事は出来なかったのか……後悔ばかりです……」
「で、ボクの元に来た訳だ」
「はい! 貴方なら、何とかしてくれると聞きました!! 貴方ならーー私を救ってくれると!!」
「うん、そだねー、出来るよー」
数端は安堵の表情を浮かべた。
それはもう、とても嬉しそうであった。
その時だった――
突然、スマホ画面の数字が『1』から『0』へと切り替わった。
「え!? な、何で!? まだ二時になってないのに!!」
「あらまー、やっぱり賢いなー、こいつ」
それは一瞬だった。
瞬く間に、スマホから現れた細く、か細い、老婆のような手が数端の顔を掴み、スマホの中へ引きずり込んで行った。
残された幽野怜は……
「うーん……大失態だねー。ボクとした事が、まさか目の前で依頼人をみすみす引きずり込まれてしまうなんて……屈辱だなぁー」
残された、ゴーストバスター幽野怜は――
「逃げ切れると思ってるのかなぁー? この野郎ー」
笑顔で数端のスマホの中に手を突っ込んだのだった。
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