第一話『ゴーストバスター幽野怜』

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【5】 「…………ここは……?」  数端が目を覚ますとそこは真っ暗な闇の世界だった。  ゴーストバスターが住む山奥の廃校舎など比にならない程の、闇の世界。  目を開けているのに、目を閉じているのではと錯覚してしまう程の闇。  完全な黒の世界。  私は今、上を向いているのだろうか、下を向いているのだろうか、左を見ている? いやいや左? そもそも私は地面に立っているのだろうか? ふわふわと宙に浮いている感じもする……分からない……何も感じないし、何も分からない……  ここはどこなの……? 「ジゴクヘヨウコソ! ヒャッヒャッヒャッヒャ!!」 「え?」  数端の目の前に、細く、か細い、老婆のような手が現れた。  やせ細った人間の右肘から指先までをイメージして欲しい。肘から手首までが物理的に長く5m程、まるで宙に浮くように存在している。  そして、これが一番の不気味ポイントだが……その手の甲の部分には、髪が生えており。  手の平には、老婆のような目、尖った鼻、梅干しのような口が付いていた。  その梅干しのような口をニタァっとさせ、老婆のような手は目の前に現れた。  その姿ははっきりと目視出来る。  見たくないのに見えてしまう。  目を閉じたいのに閉じれない。  まるで金縛りにあっているかのように。 「地獄……?」  そうだ、私はあの手でスマホの中に引きずり込まれたんだった。  ここはスマホの中? いいえ違う……ここは―― 「ソウサ! ジゴクサ! ヒャッヒャッヒャッヒャ!! ドウダ? マックラダロウ? ナァニ、スグニワタシノエサニナルノサ、ナニモキニスルコトハナイ、ヒャッヒャッヒャッヒャ!!」  その老婆のような手がカタコトな言葉を一言放つだけで、身体の震えが止まらない……呼吸も上手く出来ない……息が苦しい! 「だ、だれかっ、助けっ!」  走ろうとするも、走れない、足が地面を蹴らない。いや、地面が無いの? という事は、本当に私――浮いてるの!? 「トウゼンサ、ジゴクニジメンナドアリハシナイ! ウイテイテトウゼンダロウ!」  動く事も出来ない私は、ただただ震えながら、老婆のような手の前に立っている事しか出来ない…………  怖い! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!  怖い!! 「もう嫌! 何で私がこんな目に!!」 「ヒャッヒャッヒャッヒャ! ナンデタトウ? ワラワセテクレルナ! ソレハオマエタチジシンガイチバンヨクシッテイルハズダロウ!? ヒャッヒャッヒャッヒャ!」  そう、数端は知っている。  とうの昔に知っている――二週間も前から、知っている。 「ワタシノトンネルニ、ノコノコトハイッテキテクレテアリガトウ」  あのトンネルに入った事――軽い気持ちで肝試しをしてしまったからに決まっている。 「カモガネギショッテキテクレタノカト、オモワズカオガトロケテシマッタヨ! ヒャッヒャッヒャッヒャ!」  蔑むが如く、不気味な高笑いをする老婆のような手。 「シカモアレ、スマホトイウノカ? アレハベンリダ、ツギカラツギヘト、イモヅルシキニ、ニンゲンヲノロッテイクコトガデキル! 」 「え!?」 「ン? キヅカナカッタノカ? オキラクナノウミソダナ。ナゼ、オマエノトモダチノアト、スグニオマエニノロイヲカケラレタノカ、カンガエモシナカッタノカ?」 「ま……まさか!?」 「スマホニハ、デンワチョウ、ナルモノガアルヨナァ?」  ニタァと汚い笑みを見せる老婆のような手。 「ツギハオマエノカゾクヲノロッテヤロウカナァ?」 「や、やめて! それだけは……それだけは!!」 「イイヤ? ソレトモ……コイツノカゾクカナァ?」  老婆のような手の手首に位置する場所から、ズズズと、人の顔が浮き出てくる。  その顔は、数端の知っている人相だった。  共にトンネルに入った――  共に肝試しをしてしまった――  先に地獄へ引きずり込まれてしまった――友人。 「友人ぉ!!」  学中友人(がくなかともひと)だった。 「……り……え……?」 「良かった! まだ生きて……」 「シカシザンネン!! コレカラワタシノ、エサニナルノダガナァ!? ヒャッヒャッヒャッヒャーー!!」 「そ、そんな……!」 「セッカクノサイカイモ、アットイウマニオシマイサ!! ニンゲンノナマニクハ、ナマグサクテクエタモンジャナイカラナァ? コウヤッテワタシノナカニトリコンデ、アジツケシテイタノサ!! ンーーッ! イイカオリニナッタ!」 「……やめて……」 「ダイジョウブダ、ツギノエサガクルトキニハ、オマエモラクニナレル。ワタシノエサトナッテナァ!! ヒャーーッヒャッヒャッヒャ!!」 「……やめてよ……」 「ヤメナイヨ! ヤメテタマルカ! コノトキヲ、ワタシハドレホドマッテイタコトカ!! ナンビャクネンモマッテイタノダゾ!? アア、タ、ノ、シ、ミ、ダ、ナァ〜!! モウイイカナ? モウイイカナ? タベテモ?」 「……だめ……」 「バァーカ!! ダカラヤメナイッツーノ!! ウラムノナラ、ジブンタチノオロカサヲウラメ!! キサマラノ、オロカデ、ケイハクナハンダンデ! コレカラサキ、ヤマホドノニンゲンガシンデイクンダ!! ヒャッヒャッヒャッヒャ!! サァ!! マズハキネンスベキヒトリメダ!! 」  老婆のような手は、自身の体液でドロドロになった友人を、完全に身体から取り出し、力無く横たわる彼に涎を垂らしながら向き合う。  そして飛び掛る。 「イッタダッキ、マァーーーーァッス!!」 「やめてぇぇぇえ!!!」  響き渡る、数端の叫び声。  そして、  それに応えるが如く―― 「やめろってさー」 「ア?」  その男は現れた。  猛スピードで現れたその男は、友人を軽々とお姫様抱っこにて救出し、無事餌となるのを防いだ。 「ごめんねー、地獄って広いからさー、この場所見つけるのに時間が掛かっちゃったー」  その男は、そう言って苦笑いを浮かべる。  数端は……そんな苦笑いを浮かべている、まるでヒーローのように現れたその男を前に、涙を流しながら、顔をしわくちゃにさせながら、懇願する。 「ゆ、幽野、さぁん……た、助けてください……わ、私を……みんなをぉ……うわぁぁん! ごめんなさぁい!!」 「おっけー」  その男ーーゴーストバスター幽野怜はそんなボロ泣きしている数端に友人を預け、老婆のような手の前に立ち塞がる。 「と言う訳でー、依頼を受けた以上……今からお前をぶっ倒すからー」 「……ヤハリタチフサガルカ……イマイマシィ!! ゴーストバスタァー……」  老婆のような手は、そう唸った。
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