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小野は、少し前までただのバイトの後輩でしかなかった。指導役としての関係は長いものの、ことの成り行きで付き合うようになってから、まだ日は浅い。
距離感が掴めない俺は、小野の身体に意味のある視線を送ることさえも気が引けてしまう。
代わりに、目を閉じたまま頭の中で再現する。
ところどころ砂のついた肌、潮風に攫われそうになるふんわりした髪、南の島の雰囲気と良くマッチした陽気な笑顔。
たかがココナッツに浮かれ、感動の閾値がとてつもなく低くなって、いつも以上に子どもっぽい俺の恋人。
少しだけ実物を確かめたくなった。奴のえくぼは、寝ている時も健在なのだろうか。おとなしくなった太陽を盗み見る。
と同時に、彼は咥えていたストローを離し、こちらにその吸い口を向けた。
「っ!」
やられた。
純粋で真っ直ぐな瞳なのが、余計になんともいたたまれない。
こいつと付き合うようになってから、ひとつ気づいたことがある。
人と目が合う、というのは、自分が相手を見ているだけでは起こりえない。相手も自分を見ているのだ。
「マヒロさん、良いッスね。こういうのも」
ストローをすすり、「ああ」とだけ答えた。
たしかに、海を見ながら飲む南国の果実は、格別だと思った。
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