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「おい」という惰弱な圧力は簡単に跳ね返され、もぞもぞと陣取り合戦を繰り広げていると、俺の腕の付け根に小野の頭が乗った体勢でピタッと均衡が取れた。
遠慮のない重みがのしかかる。
「っ、なん――」
「あっ! オリオン座だ!」
俺が悪態をつく前に、小野はケロッとした表情で夜空を指差す。その先には、特徴的な明るい星の集団。
――そうか、オリオン座か。
でもオリオン座って、たしか冬の星座だよな。なるほど、さっきまでの違和感の正体がようやくわかった。
やはり、この国に夏が終わる気配はどこにもない。
じめっとした残暑、花火大会が大盛況に終わったと告げる地元のニュースキャスター、アパートの外廊下に大量に落ちている蝉。そういうものが、俺の何かを奪っていくことはないのだ。もう少しここでやり過ごせば、日本は秋だ。季節の変化を敏感にキャッチする国民性は、次の季節への受け入れも早い。
じっとオリオン座を眺める。周りの明るい星を適当に繋げて三角形を作ってみるが、何個もできてしまう。諦めて目を閉じた。
「楽しいですね」
「……そうだな」
小野の体温が、俺の心をあたためる。あたたまった心は、気の向くままに宇宙を漂っていく。
上も下も、右も左もない空間で、存在するだけの自分を感じる。なんとなく、そこに愛しい気持ちも浮かんでいる気がした。
「おい、腕枕交代な」
「すー」っと、わざとらしい寝息が聞こえてくる。
仕方ないので、だまされてやることにした。
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