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じんわりと汗ばむほどの気温が心地良い。
パラソルで日差しは遮られ、視界には広大な空の青と、薄く押し潰された海の青が広がっている。
ただこうして時間が経つのを待つ。ゆっくりと目を閉じて、髪が少し揺れるだけの空気を感じる。
やっと一人になれたと、砂浜に全身が沈んでいくのを感じていたのもほんの束の間、俺を呼ぶ声がこの神聖なひと時の邪魔をする。
「マヒロさーん! 一緒にココナッツ飲みましょー!」
カラッと乾いた明るい声は、太陽よりも眩しい。俺はわざとらしくそのうざったい太陽に背を向け、瞑想の続きを試みる。
「やっぱ南国っていったらココナッツですよね〜。しかも海を見ながら飲むのがまた格別というか」
無視を決め込んでいるにも関わらず、俺の横で小野が一人で喋っている。気にせず自分の呼吸に集中する。
「あ、マヒロさん、ビールが良かったですか? ビンタンありますよ?」
息を吐き切ったところで、考える。どうしたらコイツを黙らせられるだろうかと。
「……夜にホテルで晩酌する用にと思って買っておきましたけど、もう開けちゃいます? うーん、どうせならローカルフードも食べたいですよね。あ、さっき仲良くなった人が、地元の安くてうまい店も教えてくれて……」
「あのなぁ!」
俺は沈んでいた身体を起こし小野を睨みつけるが、奴は自信ありげにニカッと笑った。
「マヒロさん、大丈夫ッスよ。辛いソースは、言えば別にしてくれるんで」
「そういう話じゃ……」
論点はそこじゃないと指摘しようとしたが、呆れて尻すぼみになった言葉はすぐに息絶えた。
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