7年前

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 陽川涼太。享年二十一歳。  生後間も無く重病を煩い、ずっと病室暮らし。そのせいで同年代の友達はできず、病気の性質上日中の外出は一切禁じられていた。  唯一の楽しみは月一回、満月の夜に行われる病室からの逃避行。看護師たちは皆気付いていたが、彼の心情を思いやり見逃した。しかしそれすら最後の三年ほどは病状の悪化で叶わなくなった。  過酷な運命にも負けずいつも明るかった彼は、陰鬱とした病院内における太陽のような存在だった。  また彼は稀代のソングライターでもあった。病室での暇潰しにと作曲を始めた彼は、二十一年の人生で気まぐれに三〇〇以上もの曲をこの世に産み出し、遺して逝った……。  そんな紹介が流れる間私は呆然と画面を眺め続けた。  彼が教えてくれなかった彼の素性が今、当たり前のようにお茶の間に流れている。マジ泣けるよねー、なんて笑って言う隣の彼女たちと同じタイミングでそれを知ったという、その事実が私を責め立てた。  涼太くんの白すぎる肌や掠れた声。それらが濁流のように脳裏を駆け巡り、心がグチャグチャに掻き回された。そうされて然るべきだと思った。  あの夜。逃げ去る私を彼は一体どんな思いで見送ったのだろう。ジワと目尻が熱くなり、溜まった涙が重力に抗いきれなくなる寸前、その曲は流れた。  ソングライター・陽川涼太が生前最期に書いたとされる曲。  タイトルは、『太陽の唄』。
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