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歌っているのは涼太くんじゃない。今人気のアイドル歌手の、伸びと張りのある高い声。けれど私には、あの優しい掠れ声が聞こえた。
今度こそ涙が重力に屈し、堰を切ったように溢れ出した。
「え、どうしたの? 果南ヤバッ……」
「そんなに泣くほど?」
どうしよう、止めなきゃ。皆引いてる。ローテンション無感情女が急に何?って。
だけど、手の甲をつねっても唇を噛んでも、涙は無限に湧いてくる。止まらない。
そんなシラけた空気を壊してくれたのは、直哉くんだった。
「果南ちゃん、立てる? 場所変えようか」
直哉くんは私を居間から連れ出し寝室に押し込むと、理由も聞かず「好きなだけ泣いていいよ」と言って扉を閉めた。直後、扉の向こうでミニコンポが爆音稼働を始める。彼が気を利かせてくれたのだろう。
私は好意に甘え、人生で一番ってくらい嗚咽を漏らし泣き喚いた。
✳︎✳︎✳︎
ノックの音で目が覚めた。カーテンから差し込む朝日に、どうやら一晩中寝室を占領してしまったようだと悟る。今更ながら罪悪感がすごい。
おずおずと返事をすると直哉くんが入ってきた。しかもなんと手作りの卵スープ付き。深々とお礼をしていただいた後、涼太くんとの関係を説明した。
母の死を慰めてもらった出会いから、最後のすれ違いまで、全部。
話の途中、いろんな思い出が蘇り何度も泣いた。話しては泣き、泣いては話し、何度も何度も。結果小さな子供みたいな無秩序な話し方になってしまったが、直哉くんはただ黙って頷いてくれた。
話し終えた後、直哉くんは突然ぎこちなく笑った。なんで?って問う間もなく、促される。
「ほら、果南ちゃんも笑って。彼はそれを望んでるんだろ?」
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