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「笑って。ほら、ニーッて」
言われるがままにぎこちない笑顔を作る。それでよし!と彼も笑った。
「君のお母さんはきっと、君に悲しむよりも笑ってほしいと思ってるんじゃないかな」
「なんで、そんなことが分かるの?」
「俺がお母さんの立場だったら、きっとそう思うからさ」
「そっか……うん、そっか!」
綺麗事のような気もしたが、彼が本気でそう思っていることが伝わってきたからか、自分でも意外なほどスッと受け入れられた。
そうして私は母の容態が急変して以来、約二ヶ月ぶりに心から笑った。
「良かった。元気になって」
彼はおもむろに立ち上がった。私は「あのっ!」と慌てて呼びかける。不思議そうに振り返った顔が月影と重なり、神々しい光景に息を飲む。
「ありがとう! 私、今宮果南っていうの! ま、また会え、る?」
勇気を振り絞った言葉は尻すぼみになった。
これじゃまるで逆ナンパだ。さっきまで泣いてたクセに、軽薄な女だと思われただろうか。
私の不安をよそに彼はフニャッと笑った。
「俺は陽川涼太。次の満月の夜、またここで待ってるよ」
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