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雨はだいぶ弱まった。
枝から落ちた雫がトタンの屋根を打つ音が、シンとした空気を震わせる。木に括り付けられた、誰が作ったのかもわからないブランコが、キイキイ揺れる音さえ耳につく。
「昨日の夜、パパとママで相談して、そう決まったの」
「…台風が通り過ぎてからじゃ、だめなのか」
「道路の状態が悪くなるだろうから、その前に」
「いつ出発するんだ」
「明々後日の朝はやく」
「家具の片付けなんかもあるんだろ?そんなに予定を切り上げて、間に合うのか」
「うち、引っ越しが多いから、家具が少ないんだよね。すぐに準備が終わるように」
「…、!………。」
ショウイチは、もしかしたら、家族だけが先に出発して、カホはあとから合流すれば、夏休みの間だけは一緒にいられるんじゃないかと考えた。
「あたしも次の学校の手続きがあるし、荷解きも手伝うから、家族と一緒に行かなきゃだめなの」
甘い希望は全部打ち砕かれた。ショウイチの中の、なにか大事なものが溶け落ちて、ぐるぐる回る渦の中に投げ込まれてしまったようだ。
どうして引き止められないんだろう。カホはここにいて、言葉を交わしているのに。気だるげな目を見つめることだってできるのに。
カホの心は何万光年も宇宙の彼方にあって、手を伸ばしても触れられる気がしない。
たった一人の友達と一緒にいたい。そんな簡単な願いを、神様はどうして叶えてくれないんだろう。
一緒にいたい。
そんな自分の願いもカホを悲しませ、苦しめるだけなんじゃないか。そんなの結局、自分のわがままなんじゃないだろうか。
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