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7月31日 最終章「悪ガキたち」
引っ越しの前夜。空には雲ひとつない。
ショウイチと一緒に星を見ようと企んだ夜の「夜間外出禁止令」以来、夜の外出は制限されている。
カホは早めに寝るフリをして寝室へ行き、窓から外へ出るという作戦をとった。
いつものマリンシューズは玄関に置いておき、押し入れから引っ張り出したサンダルを履くことで、外出の痕跡を消した。
「きれい…」
空を見上げれば、黒いアーチに散りばめられた無数の宝石に抱かれる心地になる。
久しぶりに味わった夜の空気。車の通りがめっきり減るこの時間、まるで森の奥のように世界は静かで、風が澄んでいる。
スーッと息を吸って胸の奥が冷たくなると、心まで解きほぐされていく。
「この星を見るのも、今日が最後か…」
今までたくさんの町をたらい回しにされてきたカホも、これほど夜空が優しく、静かな光をともした町を知らない。
この空を見ていると、この町に来てからのことが名残惜しくなってくる。
星空、澄んだ空気、自転車、虫取り、それと…
「あ、ショウちゃん…!!」
そうだ、と思い出してカホは約束の丘へと駆け出して行った。
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