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丘につく頃には、カホの額にしっとりと汗が滲んでいた。
両側を木々に挟まれた階段を抜けると、広い原っぱにたどり着いた。月の光が草の表面に白い影を落とす。
目が闇に慣れてくると、筒状の物体をせかせかと並べる人影が見えた。
「なにしてるの?」
「よう、来たか」
ショウイチはちょうど物体を並べ終えて、ゲストも到着し、準備万端とでも言うように鼻の下をこすった。
芝生の上に並べられていたのは、ロケット花火。
色、形、大きさ。何もかもフゾロイなロケットが、ずらりと一列横隊を作っている。
「その、なんだ。約束してた花火大会はなくなっちゃったし、お前も明日出発するんだろ?そこでさ…最後に僕ら二人だけの花火大会でもやっちゃおうかと思ってさ」
汗の斑点ができたTシャツの裾をあおぎながら、ショウイチはくすぐったそうに言った。
「でも、これだけの花火どうしたの?」
「町中のお店でかき集めたんだ。小学生から貯めてた全財産使ってな」
ホームセンターやコンビニ。この時期だから花火はどこも品薄。これだけの数を集めるのには、一日中、町中を駆け回るしか無かったそうだ。
カホは呆気に取られて口をマヌケに開いたまま、花火の隊列に目を滑らせる。
市街地を見下ろす高台の方から、その向かいの林の方まで。ざっと十二、三個直立したロケット花火。
まさかこれを全部集めるために、昨日一日かけて?
そう思うとカホは吹き出してしまった。
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