10月末 エピローグ「あの子」

3/4
前へ
/25ページ
次へ
 気がつけばショウイチは、自宅の玄関に仰向けになって天井を見つめていた。  ドアも開けっ放しで。  「神崎さん、郵便です」  その一声で、ショウイチの時間は止まった。ドアから顔を覗かせているのは、気まずそうにこちらを見下ろす若い配達員。  「あ、あぁ〜ど、どうもっ!」  上ずった声と震える手で、一枚の手紙を受け取ったショウイチは、どでかいボックスを載せたバイクが、住宅街の角へ消えていく様子をぼんやりと眺めていた。  ふと手紙に目を落としたとき、時間は再び動き出した。  どきりと心臓が膨らんで、耳の奥でしんしんと音を奏でる。  送り主は…あの夏の日々を一緒に過ごした、他のだれでもない「カホ」だ。  「神奈川県小田原市〇〇☓☓ 神崎正一 様」  この手紙が自分へ宛てられたものであることを、何度も指でなぞって確認する。手汗で手紙が崩れてしまうんじゃないかと心配しながら、ゆっくりと裏返す。  裏面は自転車のイラストが印刷されたポストカードになっていた。  カホも、カホとの思い出も幻なんかじゃなかった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加