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気がつけばショウイチは、自宅の玄関に仰向けになって天井を見つめていた。
ドアも開けっ放しで。
「神崎さん、郵便です」
その一声で、ショウイチの時間は止まった。ドアから顔を覗かせているのは、気まずそうにこちらを見下ろす若い配達員。
「あ、あぁ〜ど、どうもっ!」
上ずった声と震える手で、一枚の手紙を受け取ったショウイチは、どでかいボックスを載せたバイクが、住宅街の角へ消えていく様子をぼんやりと眺めていた。
ふと手紙に目を落としたとき、時間は再び動き出した。
どきりと心臓が膨らんで、耳の奥でしんしんと音を奏でる。
送り主は…あの夏の日々を一緒に過ごした、他のだれでもない「カホ」だ。
「神奈川県小田原市〇〇☓☓ 神崎正一 様」
この手紙が自分へ宛てられたものであることを、何度も指でなぞって確認する。手汗で手紙が崩れてしまうんじゃないかと心配しながら、ゆっくりと裏返す。
裏面は自転車のイラストが印刷されたポストカードになっていた。
カホも、カホとの思い出も幻なんかじゃなかった。
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