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7月21日
真夏の体育館裏で、人間が凍りつくことなんてあるだろうか。
ショウイチは今まさにその状況にある。
彼の視線の先にいたのは、隣のクラスの女子生徒カホ。
建物の陰のベンチに優雅に腰掛けて、その黒い水晶のような瞳で、凍てつく視線をショウイチに向けていた。
ショウイチはカチコチに固まった関節を強引に動かして、背後の水飲み場の蛇口をひねる。
弧を描いて吹き出した水に顔を突っ込む。水はぬるかったので、火照り上がった顔を冷ますのには時間がかかった。
そうしてひと息つくと、今度は強気に、カホの方へ振り返った。
「なに…何見てんだよ」
「あんたこそ何してんの?こんな誰も来ないようなところで、大声で独り言かまして」
バッチリ聞かれてた。冷ました顔からまた湯気が上がる。奮い起こした男気も、ふゅん、と引っ込んだ。
「『明日から夏休みか〜!狭い教室から解き放たれてせーせーするぜ!俺は明日からロンリーウルフだぁ!』だって?」
一字一句覚えられてた。もう消えてしまいたい。ショウイチは恥じらいを隠せない女子みたいに、両手で顔を覆った。
「やめてくれ…頼む…分かったから」
完敗だ。カホは無口な方だけれど、そこは女子。言葉は達者だ。
「そもそも、なんでお前もここにいるんだよ!こんな体育館の裏の、虫しかいないようなところに!」
「ここの他に居場所なんて、ある?」
「まー…言えてるな」
けだるげな目から放つカホの視線は、相変わらずひんやりしていた。
だけどショウイチはどこか、その目を美しいと思っていた。
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