夏の思い出

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夏の思い出

 ――――高2の夏休み初日、私は学校の図書室に本を借りに行った。すると、私がいつも座っている席に同じクラスの不良が座っていた。 「あっ、あんた……同じクラスの。何やってんのー? あんたも赤点取って補習来たのー?」  私の定位置に鎮座するライオン頭の先客を横目で捉えた私に、ライオン頭は気さくに話し掛けてきた。  お前こそ何をやっている。赤点? 補習? お前と一緒にするな。そう言いたかったけれど、私の本能が『絡んではいけない』と私の全身に訴えてきた。 「いや……本を借りに来ただけです」 「へぇー、何借りたのー?」  彼は私の手から私が借りた本をスッと取ると、パラパラとページをめくった。 「ちょっ、返して……」 「おぇー。アリンコの行列じゃーん。吐き気してきたー。おぇー」  こいつ……馬鹿だ。絶対、馬鹿だ。見た目通りの、馬鹿だ。私は彼との初めての会話で、そう思った。  彼はあまり学校に来ていなかったし、来ても隣のクラスの不良とつるんでいるか保健室で寝ているかで、クラスには仲の良い友達がいないようだった。まずもって、うちのクラスは進学コースで、彼のような不良はひとりもいなかった。他のクラスに居れば馴染んでいたかもしれないけれど、うちのクラスでは彼はとてつもなく浮いた存在だった。  彼がどうして進学コースに居るのか、クラスメイト全員が疑問に思っていただろう。噂では1年生の頃は成績も優秀で風貌も爽やかだったらしいが。 「返して。私もう行くんで」 「どこ行くのー? 読んでいかないのー?」 「読んでいきません」 「さっき、俺のこと見てたよね? 同じクラスだよね? 隣座ればー? ついでに勉強教えてー」 「何でやねん……」 「あれっ、あんた関西人?」 「違います」 「あんたも、何で俺があんたのクラスに居るのかとか、何でこんなところに居るのかとか、どうせ煙たがってんでしょー」
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