夏の思い出

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「いや別に。興味無いんで。どうでも良いです。じゃ」  煙たがる程、彼のことを知らない。 「興味無いって、何かむかつく! 嫌いって言われるよりも傷付く! その言葉覚えてろよ。絶対興味持たせてやるからな」  怒っているようで、言い方には棘が無かった。頭にグーの手を乗せて『プンプン』とでも言い出しそうな、かわいこぶった言い方だった。 「いや……結構です」 「茜! またな」  かわいこぶったかと思えば、男らしい声で私の名前を呼んだ。 「茜って……気安く呼ばないでください。てか、名前知ってたんですね」 「さっき知った。貸し出しカードに書いてあったから」  彼は爽やかに笑った。その笑顔には不良の面影なんてまるで無くて、ライオンというよりも、猫だった。そんな彼に興味を抱いたのはその瞬間。私は案外チョロかった――。  そして、翌日も翌翌日も、彼は図書室に居た。  そして、勉強を教えるようになり、他愛もない会話をするようになり、補習でのテストで85点を取った彼に、私は屋上の存在を教えるまでになってしまった。  夏休みの後半は屋上で会うようになった。勉強もしない、本も読まない、ただくだらないことを話すだけ。時には真面目な話をしたりもした。  たまに登校したと思えばバイクでグラウンドを走り回ったり、顔に生傷を作っていたり、ピアスが増えていたり、そんな猛獣のような彼の魅力はきっと、クラスで私ひとりしか知らなかっただろう。  何度かバイクにも乗せてもらった。最初は怖かったけれど、夏の暑い風ですら気持ち良くて、彼の後ろは心地良かった。  彼と過ごした高2の夏休みは私の人生で一番楽しい夏休みだった。そして、一番悲しい夏休みだった。
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