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現役17歳と元17歳
「茜! 今日は来ないのかと思った」
「ハァ、ごめん。生徒が一人残ってて」
「そんなに息切らして、走ってきたの? 階段危ないよ? 転んじゃうからゆっくりで良いよ」
再会した彼と過ごして2週間、わかったことがある。
彼は屋上にしか居られないこと。しかも、私の昼休みの45分間と、17時から日が暮れるまでの2時間弱しか会えないこと。朝に行っても居ないこと。
声も色もハッキリしている。けれど、透けていて触れられないこと。
「そりゃあ、走るよ。時間は無限じゃないんだから」
「45分もあるじゃん」
「45分しか無いよ」
「茜の昼休みは短いんだから、無理しなくても良いんだからね。夕方また会えるわけだし」
あなたが居なくなってから、私がどれだけ、あなたに会いたいと願ったことか。叶わないと知りながら、不毛な願いを抱いてきたことか。あなたは何も知らない。私がどれだけあなたを――。
「夕方も会えるけど、夕方は……毎日、ちょっとずつ会える時間が減ってってる。1分ずつとかだけど、日に日に減ってってるから。変わらない昼休みの45分間は1分も無駄にしたくない」
暗くなると彼はスッと消えて居なくなる。だから、彼が鮮明に見える昼の時間はせめてフルで――。
夢なのかもしれない。何度もそう思った。けれど、ここに来ればあなたが居た。あの頃のように、私の隣で笑うあなたが居た。夢にしてはリアルで、現実にしては非現実的で。あなたが居るのなら、夢でも現実でも何でも良い。彼と過ごす1分1秒が、今の私にとっては何よりも大切だった。
「昔は俺の方が茜に会いたくて図書室通って、屋上についてって、バイクで連れ出して、って感じだったのにね。あはは」
「だね」
「今、俺のこと見える人が見たら、男子高校生と大人の女性の屋上での密会だよね。茜処分されない? あはは」
「は? されない! ばばぁ扱いしないで」
彼はあの頃の風貌のままで、私だけが成長している。私だけが……そんな現在の現実を直視すると、一気に切なさが押し寄せる。
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