現役17歳と元17歳

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「あっ、そうだ。朗報です。8月31日、その日1日だけ、23時59分まで一緒に居られるようです。ここからも、出られるようです」 「えっ、そうなの!?」 「だからその日、花火しよう」 「花火……持てるの?」 「持てない。だから、茜が花火してるところ見てる」 「えー、そんなんじゃつまんないじゃん」 「つまんなくないよ。昔だって、ほとんど茜がやって、俺見てたじゃん」 「……そうだっけ?」  6年前の8月31日、高2の夏休み最終日にも一緒に花火をした。河川敷で。 「今年の俺は花火持てないんだ! ごめん! ごめんね茜」  両手を合わせて謝る彼が昔よりも可愛く見えるのは、私が歳上になったからだろうか――。  同い年だったはずなのに。私だってたいして大人になったわけでもないはずなのに。止まった時間と動き続ける時間が交わらないことを、思い知らされる。 「じゃあ……河川敷でしよう」 「おっ、以心伝心♪」  ――毎日のように一緒に過ごしていたら、さすがに会話のネタも尽きてくる。それでも、毎日のように一緒に居たいと思えたのはどうしてだろう。あの頃も、今も。  会話が無くても、ただ、寝転がって空を見上げて、雲の流れを見ているうちに眠くなって。あの頃はウトウトしながら自然と指と指が触れて、自然とその指が絡まって、手を繋いで眠っていたっけ。夏休み最終日には腕枕なんてされたんだっけ。屋上に落ちている2人の高校生を、夏の太陽はどんな思いで照らしていたのだろう。  あの日あなたは「今日で夏休みが終わるなんて嫌だ。楽しすぎた。足りない」と言った。そして「茜が居るなら、明日から毎日学校行こっかな。何か楽しみになってきた」と言って笑った。笑いながら、腕枕している方の腕でぎゅっと私を自分の胸に抱き寄せた。抱き寄せながら「今日、花火終わったら言いたいことがある」と言った。  その時の彼のぬくもりや、響いてくる鼓動が愛おしかった。暑苦しくて、汗臭くて。彼の存在は愛おしさの塊だった。私も、新学期が楽しみになった。明日からもまた毎日一緒に過ごせるのだと思うと、彼の腕の中で顔が綻んだ。 「夏休みのたった1ヶ月で、村瀬(むらせ)君のこと知りすぎたよ」 「だって、俺の17年分全部話したもん。茜には俺の全部曝け出したもん。あの日図書室に居たのが茜で良かった。俺、あのクラスに友達出来るかな?」 「さぁ……ヤンキーオーラ出してたんじゃ無理かもね」 「じゃあ無理だわ」 「私に曝け出したみたいに、皆にも歩み寄れば良いじゃん」 「やだよ。曝け出せたのは茜だからだよ」  皆が知らない彼を独り占め出来たことが、馬鹿みたいに嬉しかった。
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