50 愛されることの幸せ

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50 愛されることの幸せ

 天音が敦司に報告のメッセージを送ると、なぜか敦司から俺への返信が来た。 『よし。冬磨、認めてやる』  天音がおずおずと見せてきたその返信に、敦司ってマジでいい奴だな、と俺は嬉しくなった。  天音と今後付き合っていく上で、天音に一番近いだろう敦司とも良好に付き合っていきたい。そう思っていた矢先のこのメッセージ。一気に距離を縮めてくれる敦司の優しさが心にしみた。 「やった。認められた」 「ごめんね……呼び捨て」 「なんで? お前のダチは俺のダチだろ? 俺も敦司って呼ぶわ」 「冬磨……ありがと」  嬉しそうにふわっと微笑む天音に、もう全身がとろけた。 「はぁ……ほんと、今までのお前と違いすぎて、俺ずっと心臓やばいんだけど」   天音の身体をそっと抱きしめ「マジで夢みたい……」とささやいた。  今までベッドで見ていた可愛い天音の何倍も可愛い。ほんとやばい。   「お、忘れるとこだった。で、なんでキスマークなんて付けたんだ?」  演技の内とはいえ、なんでそんなストローなんかで必死に付けた?  天音は俺の腕の中でゆっくりと息をつき、どこか口ごもりながら言葉にした。   「目を開けないとしらけるって……冬磨が言ったから」 「……えっ?」 「でも、目を開けると好きだってバレちゃいそうで……だから、他にちゃんとセフレがいるって……証拠を作りたくて……」    俺がしらけるなんて言ったから……?  天音がそっと顔を上げて、不安そうに俺の顔を覗き込む。  ごめん、天音。まさか俺のせいだと思わなくて、可愛いなんてのんきに笑ってた。   「そっか、自分のせいで嫉妬する羽目になったんだな」 「と、冬磨のせい……っていうかっ。あの……でも……」 「いいんだ。しらけるって言ったあと、俺お前のこと切るって言ったもんな……。だから必死で考えたんだろ?」 「…………うん。ごめんなさい」 「いいって、俺が悪いんだ。それに、お前が必死になってくれたおかげで……」  そのおかげで俺は、お前が好きだとはっきり自覚できたんだ。  そう伝えようとして言葉に詰まった。じっと見つめてくる天音が、まるで仔犬みたいに可愛いくてほんと心臓がやばい。 「おかげ……で?」  不安そうな顔で、まるで「クゥン」という声が聞こえてきそうで、思わず口元がゆるんだ。  あーもう、なんでそんな可愛いんだよお前。  なんて思って見ていたら、またストローで必死になってる天音が脳内に浮かんで、たまらなく吹き出した。  ダメだほんと、ストローが死ぬほど可愛すぎる。 「クソセフレからのストローっていうギャップまで堪能できたしな?」  好きだと自覚した話は今度でいいか。時間はたっぷりあるもんな。 「いやでも、まじでストローで太ももにって。ふはっ。なんだよお前、俺のことすげぇ好きじゃん」  天音の俺への気持ちが想像以上でたまらなく嬉しい。  俺が優しく笑いかけると、天音が俺の胸に顔をうずめてぎゅっと抱きつく。 「うん……大好き」  天音のその言葉は、胸がぎゅっと切なくなるほど心に響いた。 「俺……いつも冬磨が中心なんだ。週の初めは冬磨の誘いが来るまでソワソワして、約束が入ったらずっとドキドキして、冬磨と会ったあとは来週までもう会えないってわかってるから気が抜けちゃうの。冬磨のセフレになってからは、ずっとそんな生活だった」  天音の突然の告白にドドドッと心臓が暴れた。  ちょっと待て、急にそんな話……心臓もたないっつの……っ。  天音がさらにぎゅっと抱きついてくる。 「冬磨に切られたとき、もうどうやって生きていけばいいのかわかんなくなった。冬磨のいない毎日なんてもうどうでもよかった。でも、諦めたくないって……まだ何かできることがあるかもって思ったら、まだ頑張れるって思った。……それくらい、冬磨が中心なんだ」  天音のつらさも苦しみも悲しみも、一気に俺の中に流れ込んできた。ぶわっと感情があふれて苦しくなる。  もうダメだ……心臓が痛すぎる……。 「冬磨が俺を好きになってくれて、本当に夢みたい。冬磨……好き。本当に大好き……」  天音が俺の胸に顔を押し付け「大好き……」と繰り返した。  ほんと天音は、ちょいちょい俺の心臓を止めに来る。  こんなのもう再起不能だろ……。 「あ、あんまり言うと……うざい、かな」 「……ちょっと……俺いま死んでるから待って……」 「っえ?」  天音の頭に顔をうずめてぎゅっと抱き締めた。   「冬磨? 大丈夫?」 「……だめ。天音が泣いた分の苦しさ全部流れてきた。それに、もう天音が可愛すぎて悶絶通り越して俺死んだ」 「え……え?」  天音の戸惑う声すら可愛くて胸が張り裂ける。  俺は何度も深い息をついては、天音をぎゅうぎゅう抱きしめた。  ほんと俺、幸せすぎる。  こんなに可愛い天音が、こんなに俺を好きだなんて……ほんとやばいだろ。マジで最高に幸せすぎる……。  何度もぎゅうぎゅうと天音を抱きしめていると、「ぷはっ」と天音が吹き出した。 「え……天音、いま笑った?」 「えっと、うん笑った」 「なんで?」 「冬磨が可愛くて」 「は? 俺は可愛くねぇだろ。それはお前だ」 「ううん。いまの冬磨、可愛かった」 「おい、こら、可愛いって言うな」 「えっ、だって可愛かったもん」 「…………もん……って、……ほんと、かわい……」  今までの天音は絶対に『もん』なんて言わなかった。天音の仕草や言葉がいちいちクる。  天音の顎に手を添えて引き寄せ、可愛い唇を優しくふさぐ。 「ん……っ……」  天音の甘い吐息が俺の耳を溶かした。  唇を離すと、頬を赤く染めて大好きって瞳で天音が俺を見つめた。  本当に幸せすぎて怖い……。 「天音。うざくねぇから何度も言って。俺、ずっと聞いてたいって言ったろ? お前の好きって言葉」  そう伝えると、天音が本当に幸せそうに破顔した。 「うん、嬉しい。好き……冬磨」 「…………くそ。やっぱ閉じ込めてぇ」  天音を抱きしめたまま、ふたたび枕に頭を沈めて天井を仰いだ。  マジで家に閉じ込めておきたい。俺が養ってやるなんて……天音だって男で、ちゃんと仕事も持ってんのに無理だよな。 「ねぇ冬磨」 「ん?」 「タバコ、吸っていいよ。ごめんね、俺が抱きついたままだったから吸えなかったよね?」 「タバコ?」    天音に言われるまで完全に忘れてた。  あんなにやめられなかったタバコ。  今、少しもタバコを吸いたいと思わなかった。  嘘だろ? 「冬磨?」 「すげぇ天音」 「なにが?」 「全然吸いたい衝動起きなかった。天音に夢中だとタバコやめられるかも。お前すげぇな」    思い出したとたんに吸いたくなったが、必死でタバコの存在を忘れる努力をした。  もう一生吸い続けるんだろうと諦めていたタバコも、天音がいるだけでやめられそうだ。  本当に天音は、俺の天使だな。  天音がそばにいてくれれば、これからはなんでもできる気がした。  
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