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Traffic Accident
「きゃああぁぁぁーっっ!!」
がばっ。
気がつけば、そこは──見慣れた部屋の、見慣れたベッドの上だった。
自分の声に驚き、飛び起きた。
「なんだ……夢か……。やだっ、あんな大声出しちゃって、恥ずかし」
ほっと息を吐く。
全身汗だくだった。
「汗びっしょり」
額から流れる汗だけでもとりあえず拭う。
それにしても、怖い夢だった。
夢の内容、実は良く覚えていない。でも、怖かったという感触だけは覚えている。
“何か”から必死で逃げようとする、自分。とても怖い“何か”から。
逃げても逃げても、追いかけてくる。
でもその“何か”が何なのかわからない。
わからないところが、また怖い。
「ま、いいか」
“何か”に追いかけられる夢なら、今までにも何度も見たし、それはいつだって“何に”だかわからない。
そんなの気にしてたってしょうがない。
夢は、夢なんだから。
そう思った時。
ふと。
『夢だと思っていたことが現実で、現実だと思っていたことが夢かも知れない。それを確かめることなど、誰にもできない』
そんな言葉が浮かんできた。
私の親友、綾がよく言う言葉。
「…………まさかー」
ふふっと、何だか可笑しくなって笑ってしまう。
「あ、いけない。急がなきゃ」
枕元に置いてあったスマホを掴んで時間を確かめると、八時ちょっと前だった。
慌ててベッドから降り、制服に着替える。
紺のブレザーに、赤のラインが入ったチェックのスカート。赤いリボンタイ。
制服の可愛さと、歩いて十五分程の距離にあることで選んだ高校だった。
朝食を食べる時間はないが、髪だけは整える。ツインテールに、今日は青いリボン。
「行ってきま~す」
妙に明るい声を出す。
返事は返ってこない。
それもその筈、家の中にいるのは私だけ。
朝早く仕事に出かける母親と、数日家を空けることがデフォな父親。
こんなこともいつものことだ。
それでも言ってしまう。余計に淋しさを感じるとわかっていながら。
★ ★
しまった! この信号長いのにっ。
もう、遅刻決定。
この大通りは時差式信号機。歩行者が横断できる信号は今赤に変わったばかりだった。
次に巡ってくるまでが結構長い。
はぁとため息をひとつ吐いて、なんとなく後ろを振り返る。
まだ開いていない店のショーウィンドウ。自分の姿が眼に入る。
あ~髪、なんかちょっと、変。
慌てていたせいか、家では上手くできていたと思っていたツインテールも、こうして見ると左右の位置が揃っていないし、後れ毛もだいぶある。
仕方ない。休み時間に直そう。
なんて考えてて。
あれ? と思った。
ウィンドウに映る、白っぽい影。
真後ろに立っているように見えるのに、何故だかはっきりとしない。
淡いオレンジ色の髪の……?
私くらいの年齢の男の子……?
ウィンドウ越しに、笑いかけられてるみたい。
くるっと振り返る。
「いない……」
そう口にした瞬間。
とん……と、軽く、でも絶対的な力で道路に押し出される。
えっなにっ。
キキキキキーッッ。
間近でブレーキ音がした──。
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