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Epilogue
「……りちゃん。まりちゃん」
「え……」
「良く寝てたねー。次降りるよー」
うふふっと親友の亜美ちゃんが笑う。
私は辺りを見回した。
そうだ、ここは電車の中。今日は日曜で、朝から亜美ちゃんと出掛けた。
「なんか、夢見ちゃった」
「そうなの? どんな夢?」
「うん……」
私は思い返す。
すごく怖い夢だった。
「夢の中で、いろんな夢を見る夢」
「え?」
亜美ちゃんが不思議そうな顔をする。
そう──あれは夢。全部夢なんだ。
私の名前は真理子。茉莉花なんて名前じゃないし、顔だって、髪型だって全然違う。男の子にモテたこともない。
父親は幼い時に亡くなって、母がシングルで私を育てた。大きな家ではなく、小さなアパートで。
──すべて、夢……。
「でも、珍しいね。まりちゃんが電車の中で寝ちゃうなんて」
「あ……そうだね」
そういえば、そうだった。
私は神経質なのか、電車やバスで寝たことがない。
余程疲れてでもいたのだろうか……?
ふ……っと、何だかわからない不安が過った。
「あ」
亜美ちゃんが窓の外を見ながら、小さく声をあげる。
「どうしたの」
「んふふふ」
妙に楽しそうに笑う。
「今ね……とても素敵な人見ちゃった」
「へぇ? どんな人?」
そう訊きながら、私も外を見る。
「淡いオレンジ色の髪のすごく綺麗な男のコ──」
「え────」
一瞬思考が停止した。
その間に、電車はホームへと滑り込む。
ドアが開き……。
「あ、見てみて。あの人よ」
亜美ちゃん、私の耳許で囁く。
「────」
亜美ちゃん……なんで、気がつかないんだろう。
街灯もない真っ暗な場所で、人の顔なんてわかる筈なかったのに。
電車のスピードに、人が追いつくわけないのに。
私……まだ……夢の途中……?
完
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