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Murder
…………。
…………。
「貴方が引き取ったらいいじゃない」
「私は仕事が忙しい。何もできない」
「家政婦でも雇えば? それに、本当に仕事で忙しいだけかしらね」
「何の話だ」
…………。
…………。
いったい…………誰のせい…………?
知らないうちにドアは全開で、私は部屋の中にいた。少しずつ少しずつ、足は勝手に動いて、二人に近づいていく。
でも、二人のことは見ていない。
「茉莉花ちゃん……帰ってたの」
「茉莉花……」
二人の声が被って聞こえた。
「あのね、茉莉花ちゃん。ママたちね──離婚することになったの」
聞かれたと思ってか、自分からそんなことを言うママ。
「それでね、茉莉花ちゃんは、パパの方に行った方が良いと思うの」
パパと話していた時と違う、猫撫声。
気持ち悪いなぁ、もう。
──いったい……誰のせい………?
「いや、やっぱり、女の子は母親の方がいいよな、茉莉花?」
「このままこのお家に住めるし、贅沢もできるのよ──ママね、他の人と結婚することになったの。子どもが二人いて、余りお金に余裕がないの。茉莉花ちゃんもそれだと辛いと思うの」
──イラナイ──
いらないんだ、私。
何言ってんだろ。二人とも。
勝手に私のこと勝手に決めて。
は? 他の人と結婚? そんな人と出会う時間が何処にあったっていうんだ。
ううん。
あったんだ、ママには。私もパパもいない時間が。
テーブルの上に果物の入った篭。
これ見よがしに、傍に置いてあるペティナイフ。
いやだなぁ。ママったら。
なんで、そのまま置いてあるの? ありえないでしょ。
きらり……と光って、とても綺麗な……ナイフ。
そっと手を伸ばし、後ろ手に隠す。
何でそうしたのか、自分でもわからない。
「私は仕事が忙しくて、茉莉花と一緒にいられない。それじゃあ、茉莉花も淋しいだろう? 本当は私もお前を引き取りたいんだが…………」
──誰のせい……?
パパの──この男のせいだ……!
仕事だと言って家に帰えらず、私たちを省みなかった。
でも、本当は外に女がいることを私たちは知ってる。
だから、ママも。
みんな! みんなこの男のせい!
この男のせいで、ママまで私を捨てるんだ!!
イラナイノハ──あんたの方だよ……!
ぎゅっとナイフの柄を握りしめる。
────そうだよ……イラナイのは、アイツだよ……。
ふいに、風が耳を掠めるような、囁き声が聞こえた。
────いいよ……きみの思うようにして。
ほら…………やっちゃえ。
「うん。だよね」
にこっと笑って、二人の顔を見る。
「え?」
二人同時に不思議そうに。
煌々と光るシーリングライトに照らされ、ぎらりとナイフが煌めいた。
★ ★
実際──殺したい程憎んでいたかと言えば、そんな筈もなかった。
…………そんなこと、思いつきもしない。せいぜい泣いて喚いてモノを投げるとか、そんな程度。
なのに。
これは何?
ぴかぴかの床の上に俯せで倒れている二人。
二人とも衣服が真っ赤。
そして、私の手も──真っ赤。
手だけじゃない。お気に入りの可愛い制服も、赤く染まっている。
「知らない……私じゃない」
ゆっくり頭を振る。
────きみだよ。きみがやったんだ。
また声。今度は、二人が倒れている向こう側から。
────綺麗だね。醜い二人をきみが綺麗にしてあげたんだよ。
そんなに遠くはないのに、何故だかやけにぼんやりとして見える。
淡いオレンジの髪の……少年……?
何処かで、見たような。
笑っている口許だけが、やけにはっきりと見えて、背筋がざわりとした。
「あなた……誰なの……?」
「僕? 僕はね……────」
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